第84話 父と娘

 いたい…お母さん…お母さん…

「もう止めなよ…それ以上やったら死んじゃうよ」

「だったらお前がこいつをなんとかしろよ!」

「ちょっと!どこ行くの?!」

「ガキを捨てなきゃお前を捨てるからな!」


からだがいたい…



「さあ、食っていいぞ」


ごはんだ…

たべたら…また、いたいことされる…


「大丈夫だ、食べろ」


おいしい…ぜんぶたべていいの…



ここ…どこ…お母さんどこ…


「目が覚めたか?ここは病院だ。判るか?

お前は病気だから…ここで治そう」


ごはんくれたひと…

いたいこと…しない…



「これからはおれがお前の父親だ」


お父さん?


いたいことしない…

あたまなでてくれる…

えほんもよんでくれる…



「お…お父さん…」

「そうだ、お父さんだ。螢は俺の娘だぞ」


お父さん…お父さん…


「さあ螢、今日はお父さんがおやつを作ってやるぞ」


蒸しパン、ホットケーキ…


「螢、美味しいか?」

「おいしい!お父さん大好き」



「お父さんどこ〜っ!」

「螢ちゃん、お父さんお仕事だから…」

「やだっ!やだっ!やだっ!」


「お父さん連れてって〜!螢いい子にするから…お父さん螢捨てないで〜」


いっぱい飛行機に乗った。

いっぱい歩いた。

でも…お父さんと一緒



「こんにちわ螢ちゃん、わたし真古都」

「俺は翔吾だ、よろしくな」



「螢ちゃん、ご飯出来たからお父さん呼んできて」

「はぁ~い」


「お父さん、お父さん、真古ちゃんがご飯出来たって」

「判った…」

「お父さ〜ん」

後ろからお父さんに抱きつく。

「俺の娘は甘えん坊だな…ほら、抱いてやるから」

「わぁ〜い」



「再発?」

「数値が可成り悪いです。入院して様子を見ましょう」


「螢…」

「お父さん大丈夫だよ、お薬飲めば学校にも行けるって」


“大きくなったらお父さんみたいな人と結婚するの”病気が再発してからわたしは言わなくなった。


だって…どうせわたしなんて…誰も好きになんてなってくれない…


「お父さん」

「なんだ…」

「なんでもな〜い」


「螢、何いい齢してチビたちと一緒になって親父にくっついてるんだよ!」

「い〜じゃん大好きなんだもん!キラもしたかったらすればいいじゃん」


「バカじゃねぇの!俺がくっつく方がもっと変だろーが!」

「もうキラのけちんぼ!」


「お父さん、わたしずっと子どもたちの面倒見るから心配しないでね」

「何言ってる…お前だって嫁に行くんだから家のことは心配するな」


お父さん…わたしは本当のお姫様じゃないから誰も迎えになんて来ないんだよ…



「お父さん…わたし数くんがやっぱり好き」

「少し頼りないが勘弁してやるか」


「親父!螢が…カッターの刃で喉を切った」


なんで…

螢の机の引き出しから薬と検査結果の用紙が出てくる…【透析】…


まだこれからなのに…

【透析】なんて…


「翔吾と一緒にフランスへ行きたい?」

淋しげに頷く娘にダメだとは言えない…

帰ってきたらこれまで以上に家に閉じ籠もって生活するんだろうか…


フランスから帰ってきた螢は思ってたより元気そうだった。

何より、出張先から連れて帰った子どもの世話をしたがった。


「わたしね、お母さんになるの。マモちゃんと一緒に数くんとフランスに行くの」


わたし、お父さんみたいな素敵なひとと結婚するんだよ。

大好きなお父さん…今までありがとう…














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