第83話 思い出

 あれは専門学校も卒業が迫ってきた頃だった。俺が家に帰ると、家の前に女と子供が立ってる。


それでも気にはならず家に入ろうとしたら声をかけられた。


女は、高校の時俺に抱かれて出来た子供だから引き取れと言い出した。


最初は取り合わなかったが、連れていた子どもを見ているうちに気が変わった。


ボーッと黙って立っている。


俺は女に、子どもを置いていくなら戸籍も全てよこせ、その後は二度と顔を見せるなといった。


女が離れていっても、後を追おうともせずに乾いた目で見送っていた。

一体何と言って連れてこられたんだろうか。


「お腹すいたないか?」


俺は軽い気持ちで子どもの肩に触れようとしたら、いきなりビクつき怯えた顔で俺を見て震えている。


まあ、知らない男の下に連れて来られたんだ怯えるのも無理はない…


さて…今家にある物で作れるもの…


「さあ、食っていいぞ」


俺はオムライスを作って目の前に出してやった。食べ物を前に、少し目が輝いたと思ったら、俺の顔を伺うように見ている。


「大丈夫だ、食べろ」


なるべく優しく言うとやっと匙を手に取りガツガツと食べ始めた。


髪も可成りパサついてる。いつから風呂に入ってないのか…

俺は同居している祖母に頼んで子どもを風呂に入れてもらった。


入浴が終わった祖母が俺に言った。

「あの子の躰可怪しいよ」

その意味が夜判った。


真夜中の救急外来。

医者から告げられた言葉。

暫くの入院。


俺は女に連絡を入れる。

「子どもが入院した。心当たりはあるだろう?警察に言われたくなきゃさっさと書類を用意しろ!」


俺はヤケクソになって散々馬鹿な真似をしてきたツケが回ってきたのだと思った。

この子どもとの生活が俺の再出発だ…


病院には毎日通った。

入院して一週間。俺は子どもに書類を見せて言った。

「これからは俺がお前の父親だ。あんまりいい父親じゃないが二人で頑張っていこう」


俺は螢の父親になった。


螢の入院は腎臓の損傷。

あの子の躰にあった無数の痣。

医者は虐待による暴行ではないかと言った。


入院して暫くは血尿が止まらなかった。


入院中の螢に絵本を買ってやる。

読み聞かせをしてやると喜んだ。


1か月後に退院したが、その後は通院が続いた。医者からは完全に腎臓の機能が回復した訳じゃないので再発には注意するように説明を受けた。


俺にも懐いてくれるようになり、フランスに渡ってからも順調に過ごしていた。


それなのに…

日本に帰ってきて、中学2年の時再発…


母親に捨てられただけでも辛いのに…

その時の暗い出来事が今もなおあの子を苦しめる…


俺の前ではいつも明るく振る舞っていて…

「大きくなったらお父さんみたいな人と結婚するの」そう言っていた。


大事に大事に育てた娘を取られるのは癪に触るが…


きっとアイツなら螢を幸せにしてくれるだろう…

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