第81話 結婚の記念
日本の役所にも書類を提出し、俺たちは両国ともに夫婦になった。
「これで螢はずっと俺のものだな…」
俺はあんまり嬉しくて、つい口に出た。
螢は赤らめた顔をそむける。
「あ…当たり前じゃない…ただでさえ普通の結婚より出す書類が多いのに、しかも2箇所に出さなきゃならないんだから…そんな面倒なことしません」
そんな事を言われた俺は癪に障って意地悪したくなった。
「面倒で無かったら出すの?」
螢は困った顔で暫く黙った後俯いて言った。
「数くんが泣かせなかったらしないもん…」
くそっ…こんな事言われたら俺に勝ち目はない…
「じゃあ、ずっと俺の螢だ」
ベッドの中で、俺は何度も唇を重ねる。
まさに幸せの絶頂とは俺のための言葉だ!
最も、そこから落ちるつもりは毛頭ないが…
「螢用意出来たか?」
「うん! 皆んなでお食事なんて楽しみだね」
結婚の記念に皆んなで食事をする事になった。
とはいっても、俺と螢の家、それに名雲と水之江も来る。
人数からいってその辺のファミレスと云う訳にもいかず、そこそこの会場を借りてする事になった。
会場に着くと水之江が螢を連れて行く。
「螢ちゃん、わたしたちはまずこっちで用意があるんだよ」
螢は何も知らずについて行く。
行ったらさぞかしびっくりするだろうなぁ…
などと、悠長な事は言ってられない…
そう、俺にもするべき事があるのだ…
「ちょっと彩希ちゃん!これって…」
「いいからいいから…ベールを持つ役はわたしにやらせてね」
会場の人がドアを開けてくれると、ドアから真っ直ぐ向かうその先に大好きな数くんがいる…
まるで絵本の中の王子様みたい…
近づくと数くんがいきなりしゃがんでわたしは手にキスをされる。
「可愛いお姫様、どうかわたしの妻になってくれませんか」
螢は子どもの時から素敵な王子様と結ばれるハッピーエンドの話が好きだった。
「わたしはお姫様じゃないから、王子様は迎えに来ないよ」
そんな事を言う時の螢は凄く寂しそうに笑ってた。
螢、ちゃんと迎えに来たよ。
螢の眼から幾つも
「はい…はい…喜んで…」
小さい時からいつも傍にいる螢を、漠然と自分だけのものだと思っていた。
大きくなるにつれて泣き虫な螢を、護ってやるのは自分だと思うようになった。
そのうち、そんな気持ちを素直に出せなくて、思っていることと反対な事ばかりが口から出るようになった。
護ってやりたいのに、素直になれない自分の気持ちが、螢への愛情だと気付くのに間抜けな俺は随分時間がかかった。
だけどもう間抜けな自分は終わりだ…
俺は誰よりもお前が好きで堪らない…
これから先も俺の傍にはお前が必要だ…
「螢…歩けるようになったら好きな人と結婚式をあげたいと言ってただろ?俺は絶対叶えてやると言った筈だ。好きな人は俺でよかったよな?」
俺は螢の指に内緒で用意していた指輪をはめながら訊いた。
「うん…うん…数くん大好き…」
おめでとう〜っ!
式場の外では皆んなからのお祝いの言葉と花が投げられる。
「彩希ちゃ〜んっ!」
わたしはブーケを彩希ちゃんに投げる。
彩希ちゃんは受け取ったブーケを振りながらにこにこ顔だ。
「螢ちゃんありがとう」
「いいなぁ~おねぇちゃん」
吾古が羨ましそうな顔でブーケを見ている。
「えっ、順番で行ったら吾古ちゃんよりわたしでしょ?わたしにも早く素敵な王子様が迎えに来てくれないかなぁ~」
彩希ちゃんはブーケを胸に抱いて呟いてる。
「えっ!えっ!
彩希ちゃん!俺と…俺と結婚してくれっ!」
思わずその場で声をあげてしまった名雲に皆んなの視線が集まる。
「や…やだっ、敦ちゃんってば…それって今言う?」
水之江もどうしていいのか判らず顔を染めてオロオロしている。
「どうした水之江!遠慮しないでハッキリ返事してやれ」
「名雲くん、頑張って!」
名雲は呼吸を整えて気持ちを決めると、水之江に再度向き直った。
「彩希ちゃん、君が俺の彼女になってくれて本当に嬉しかった。今までずっと一緒だったように、これからもずっと俺の傍にいて欲しいんだ。俺と結婚してください」
「もう…相変わらずタイミング悪いんだから…」
「ご…ごめん…」
「でも…そんなところが好き…
敦ちゃんなら…ずっと信じてついていける…」
「彩希ちゃん…」
「これからもよろしくね」
水之江の言葉に、周りからも拍手と歓声がおこる。
「お兄ちゃんカッコいい!」と、小さな子どもたちから変な声援も受けてる。
なんていっても、二人とも今日の立役者だからな!
この二人がいなかったらこんなにいい式は挙げられなかった。
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