第80話 友人
「彩希ちゃ〜ん!」
久しぶりの再会に嬉しいのだろう、螢は水之江に飛びついていた。
「螢っ!まだ走っちゃっダメだって言われてるだろっ!」
俺は走って行く螢に向かって大きな声で制した。
「ごめんなさい…だって久しぶりで嬉しかったから…」
水之江に抱きついて笑う螢があんまり可愛くて、俺はそれ以上怒れない…
「と…とにかく気をつけろよ!まだ足は完全に良くなった訳じゃないんだから…」
「はぁ~い!」
俺の気も知らず、螢は水之江と仲良くお喋りをして歩いていく。
「まあまあ、久しぶりだから許してやれよ。それより、頼まれてたもの、期待してていいぞ!」
名雲は肩を叩いて自信満々な顔を見せる。
俺の方も、つい顔が緩んでしまう。
「ホントか?ありがとう!助かったよ」
「俺より彩希の方が自分のことみたく真剣に選んでたからな…コッチも予行練習になって良かったわ」
名雲も笑って応える。
「なんだ、予行練習って、いつそんな相手が出来たんだ?」
深い意味も無く言ってしまったが、名雲のヤツが詰め寄ってくる。
「何言ってんだよ!決まってるだろーが!」
前を歩く水之江と螢に聞こえないようになのか、幾分声は落としてるものの、向きになって抗議している。その様子に前を歩く水之江を見た。
この二人が一年の時から付き合い出したのは知っていたが、そんな事を考えるほどだとは思っていなかった。
「ええ?! 水之江には言ったのか?」
俺も少し声を潜めて名雲に訊いた。
だが、名雲の顔が紅潮すると、そこから先の返事が帰ってこない。
「まさか、まだ言ってないのか?」
名雲はまともに俺の顔を見ない。
「おい、俺が言うのも何だが…水之江は結構いい女だからさっさと婚約だけでもしておいた方がいいぞ!」
水之江は明るくて裏表がなく、よく気がついて優しい気質のヤツだ…他の男だって彼女にしたいと思っても不思議じゃない。
「簡単に言うなよ!コッチはまだ社会人にもなってないんだぞ!まだ早いって言われたらどーするんだよ!」
いつになく真剣な顔で俺に迫ってくる。
「だから、そのための婚約だろ?
他のヤツに取られたくなかったら形だけでもしておいた方がいいと思うぞ」
俺は真面目に名雲へ伝えた。
他人事ではない…俺も螢が欲しくて…彼氏、彼女の関係だけでは不安で婚約を結んだ男だ。
情けない男だと思われようが、絶対螢を他の男に渡したくなかった。
名雲が俺と同じように水之江を想っているなら、絶対婚約はするべきだ。
「わ…判った…ちょっと、頑張ってみるわ…」
名雲の顔はまだ幾分紅潮したままだが、何かを決めた表情をしている。
俺にとっては二人とも心を許せる大事な友人だ。
出来るなら俺と螢のように幸せになってもらいたい。
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