第79話 愛し君へ
目が覚めると俺の腕の中に細い螢の躰がある。
昨夜俺は、自分の欲情が抑え切れず、この今にも折れてしまいそうな躰に無理をさせて、自分の印を彼女の中へ残し続けた。
螢の病状も心配だった。
喉の傷も、動かない足も心配だった。
それよりも、芳しくない躰で逢いに来てくれたお前を、俺は一方的な欲情で彼女の躰を蹂躙し深いキズを付けてしまった。
再び彼女の躰を求めた時、もし拒絶されたら…
そう思うと彼女の肌に触れられなかった。
だけど螢は昨夜俺を受け入れてくれた。
頬を赤く染め不安に震える彼女が可愛かった。
そこには俺だけが触れられる、
俺だけが知っている螢がいる。
誰のものでもない…俺だけの螢…
これからもずっと俺だけのものだと思うと、
今までの気持ちが堰を切ったように溢れ出し、
何度も彼女の中へ気持ちを注ぎ込んだ。
螢が目を覚まして俺を見る。
頬を染め、再び俺の胸に顔を埋めてしまった。
そんな彼女が可愛くて堪らない。
「螢…躰は大丈夫?」
無粋な質問と判っていながら、やはり病気の躰は心配だった。
「大丈夫…」
小さな声で返事が返ってくる。
彼女が言うほど大丈夫な訳では無いのも判る。
「役所はあしたにするか?」
今日は躰が辛いだろうと思い、休ませたかった。
「嫌…今日がいい」
恥ずかしそうに頬を染め、それでいて少し口を突き出して拗ねながらのお強請りだ。
こんな表情ひとつで俺の理性は飛んでしまう…
「随分のんびりしてたな。やっぱり飛行機で疲れたんだろう?タマモこっちで預かって良かったな」
結局、お昼近くになってから起きた俺に父さんは心配して声をかけてくれた。
「ありがとう父さん…これから螢と役所へ行ってくるよ」
なんだかバツが悪かったので、碌に顔も見ずにまた部屋へ戻った。
部屋に戻ると螢も着替えが済んでいた。
「じゃあ行こうか」
「うん」
俺たちは二人で役所に書類を出しに行った。
「国際結婚ですか…大変ですね」
役所の戸籍係りの人が書類を確認しながら、時たま俺たちを見て言った。
「ご結婚おめでとうございます。末永いお幸せをお祈りしております」
係りの人が祝の言葉をくれた。
「よろしかったらあちらの金木犀の鉢をひとつお持ち帰りになりませんか?ご結婚されたお二人にプレゼントしております。今日の記念にどうぞ」
そう言って横に並べてある鉢を進められた。
「ありがとうございます。それではひと鉢頂いて行きます」
俺たちは再度係りの人に頭を下げ、今日の記念に金木犀の鉢を貰って帰ってきた。
「お帰りなさい…まあ、金木犀。今でも結婚するとくれるのね」
母さんは持って帰った金木犀を見て嬉しそうに笑っている。
「今でもって…母さんと父さんの時も?」
「ああ、俺たちの時も貰った」
父さんがタマモを抱いてる母さんに顔を向けながら教えてくれた。
「画廊の横に植えてあるでしょ」
母さんの一言で思い出した。裏庭に確かにある。
なんでこんな見えない所にと、子どもの時母さんに訊いた事があった。「あそこはお父さんの仕事部屋からよく見えるの、だからあそこがいいってお父さんが決めたのよ」その返事に子どもの時は父さんは金木犀が好きなんだと思ってた…
父さんは母さんとの結婚をそれだけ大事に思っていたんだ…
俺も…父さんと母さんみたいな夫婦になれるように螢を大事にしよう…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます