第78話 里帰り

 〘おい、夏の休暇はどうするんだ?〙


帰り際先輩が訊いてくる。


〘日本へ帰ります。俺たち国際結婚なんで両方の国に書類出さなきゃいけないんですよ〙


俺の返事に先輩は少しびっくりしたようで、もう一度訊き返された。


〘国際結婚って…お前ら日本人だろ〙


まあ…そう思うよな…


〘俺の母さんは元々こっちの国籍の人と結婚してて…その関係で今の父さんと結婚した後も、俺と母さんの国籍はこっちなんですよ〙


ウチの家族は複雑なんで、詳しくは説明できない…


〘それに、今回は螢にプレゼント用意してあるんです!〙



1か月間の夏季休暇を日本で過ごすために俺たちは空港に向かっている。

10ヶ月になったタマモは可成り体重も重くなり、螢にずっと抱っこは出来ない。

最近やっとベビーカーに慣れてきてくれた。


外でタマモを抱くのは専ら俺の仕事になった。

タマモは飛行機の中でも、特に機嫌も損ねず、よく食べよく眠ってくれて助かる。



飛行機を降りると、ムッとした日本特有の空気が先ず俺たちを出迎えてくれる。


俺は先輩にも言ったが、今回は螢に大きなプレゼントを用意していた。

彼女ならきっと喜んでくれる筈だ。


螢には感謝しかない。

タマモの世話を父さんから任されて、情が湧いたからって父親になったけど、そんな俺でもいいと螢は言ってくれた。


本当なら自分の子どもが欲しいだろうに、タマモの世話をよくしてくれる。

父親になると宣言しながら、結局はタマモの世話を螢にばかり任せている。


俺は夫としても、父親としても、本当に出来損ないで…螢がいなければ俺は夜も日も明けない…



日本に帰って来たその夜、俺は螢にもう一度確かめた。


「明日…役所へ行くけど…螢は本当に俺でいいのか?」


ベッドの中で、少し不安にかられながらも彼女に確かめた。


「数くんこそ…わたしみたいな病気持ちでいいの?わたしは数くんがお嫁さんにしてくれて、マモちゃんのおせわも出来て凄く幸せだよ。

本当にありがとう」


螢が、涙が出るくらい嬉しいことを言ってくれた。


「螢、ありがとう。俺、お前の夫としても、タマモの父親としてもまだまだだけど、絶対にお前たちを大事にするから!絶対に幸せにするから!」


俺は螢を胸に抱き自分の思いを伝えた。


「ありがとう数くん…数くんはわたしにとって誰よりも素敵な旦那様だよ…」


彼女への愛しさが溢れて止まらなかった。

嫁にもらっときながら、少しも楽をさせてやれず、いつも無理ばかり頼んでいるのに…

それでも俺のことをそんなふうに言ってくれる螢を、俺も離したくなかった。


「螢…大好きだ」

「わたしも…数くんが誰よりも好き」


俺たちはその夜、結婚して初めて夫婦としての誓いを確かめあった。


螢は…俺に全てを任せてくれた…

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