第76話 検診
螢は二週間に一度病院で検診がある。
腎臓病は今のところ病状は横這いと云ったところで、悪化していない代わりに、良くもなっていない状態だった。
喉の傷もほぼ完治になり、声の方も日常会話は問題なく出せている。しかし叫んだり、大声を出すのはまだ止めた方がいいそうだ。
足もまだ走れないが、日常生活で車椅子を使うことは無くなった。
〘移植も、もう少し体力がついてきてからの方がいいですね〙
これが今のところ1番の悩みだ。
螢の躰は華奢で抱きしめると本当に折れそうだ。元々細かったが、喉の怪我以来食事量が減ってしまった。最近では少しづつ増えて来てるものの、中々体重の増加に繋がらない。しかも気管を傷つけたこともあり肺にも影響が出た…
螢の躰が回復するなら、もう少し体重が増えて太っても俺は全然構わないのに…
〘それと、移植に関してドナーの選定を始めたいので、提供希望者を決めておいてもらえますか〙
来月には一度日本に帰る。
日本にも婚姻届を出さないといけないからだ。
その時、ドナーについても話をしよう。
勿論、俺は自分の腎臓を螢に提供しようと思ってる。だが、適合の問題もあるから候補者は複数いた方が良いのかもしれない。
それと、日本に帰ったらどうしても実行したいことがあり、それについては名雲や水之江と密かに連絡を取りあって話しを進めている。
〘子どもは養子だと伺っていたので、母親としての精神面の負担を危惧していましたが、むしろその逆で螢さんは母親でいることが嬉しくて堪らないようで安心しました。だからと云って、躰に負担がかからない訳では無い。
育児は可成りハードな仕事です。ご主人はその点をよく理解し、手助けを怠らないでください〙
子育ての負担を医師が心配するのも無理はない。
俺も実際タマモの世話をしてみて、どれだけ育児が大変な作業なのか思い知った。
ウチの父さんは端から〈母親〉〈父親〉なんて括りは関係なく、〈自分の子ども〉と考えてるから育児も家事も当然のようだった。
〈母親だから〉といって、妻に任せきりにしている夫はなんて無責任なのかと感じたし、改めて父さんを誇りに思った。
大変な作業だからこそ二人で助け合うべきだ。
俺たちは買い物をするためショッピングセンターに寄ることにした。
大きなカートにタマモを乗せて見て回る。
「あ〜あ〜!」
暫くするとタマモが声を出して動き出す。
どう云う訳か乗ってるのは最初だけで、そのうち飽きるのか俺と螢に抱っこをせがむ。
7ヶ月になるタマモは、螢がずっと抱いているのは無理な重さになった。
「はいはい、マモちゃんおいで〜」
螢が出を伸ばすとタマモもニコニコ顔で手を伸ばしてくる。
「あう、う〜」
「もう、マモちゃんは抱っこが好きだね~」
暫くして今度は俺が抱く。
「あう〜あう〜」
これまたご機嫌で抱っこされてる。
全く、随分甘ったれになったな…
〘よう、カズマじゃん〙
そう声をかけてきたのは先輩のセルシオさんだ。
今日は珍しく女性と一緒にいる。
〘こんにちは螢さん〙
〘こんにちは〙
相変わらず螢の方へ先に近づき挨拶してる。
〘家族揃って買い物か?〙
〘検診の帰りなんですよ。毎回結構時間がかかって、終わるのはいつもこんな感じです〙
俺は病院へ行くと結構時間がかかり、ほぼ一日がかりなのを苦笑しながら話した。
〘タマモは相変わらず抱っこが好きだなぁ〙
〘そうなんです。全然カートに座ってなくて…〙
抱っこにご機嫌なタマモの話しに先輩も呆れ顔だ。
〘そうやってると本当に実の子どもみたいだよな〙
〘変なこと言わないでくださいよ。そんなのは俺も螢も関係ないですから〙
血の繋がりを重視するなら俺の家も螢の家も当てはまらない。
ふと見ると、連れの女性が螢をつまらなそうに見ている。まあ、突然彼氏が知り合いに会って自分は蚊帳の外だ…面白くないのだろう。
〘それじゃあ先輩、俺たちもう行きますね。
螢も家で休ませたいんで〙
〘ああ、またな〙
螢を早く休ませたいのは嘘じゃない。
病院に行くと何かと疲れるから。
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