第72話 出発

 「おい、忘れ物はないな?書類はみんな入れたか?必要な書類は全部揃ってるな?」


「何回も確かめたから大丈夫だよ」


「何言ってる。出発は3日後だぞ、最初が肝心なんだ。書類に不備があれば申請が遅れるんだ。

もう一度二人で確認しろ」


「は〜い」


数真と結婚が決まってから始終にこにこ顔で、嬉しいのは判るがこっちが心配してても訊いているんだか…訊いてないんだか…


「…ったく、浮かれやがって!」


文句は言うものの、幸せそうな娘の顔は親としてはやっぱり嬉しいものである。



何歳いくつになっても“お父さん、お父さん”と纏わりついて離れなかった娘だ。

送り出す気持ちも一入である。




空港には名雲と水之江も来てくれた。


「次に会えるのは夏か…ちゃんと連絡しろよ」

「螢ちゃん、本当に嬉しそう…瀬戸くん、螢ちゃん頼むね」


「大丈夫だ!あんなにいい嫁さんをもらったんだ。タマモもいるし、俺は幸せ者だ!」



「お父さん、行ってきます」


相変わらず父親の腕に絡みついている。


「母親になるって云うのに、何自分の方が子どもみたいな事をしてる」


これから遠くへ行く娘に覚えた寂しさを悟られまいとワザと言った。


「い〜の!お父さんの娘だから!」


螢は尚も父親の腕にしがみついた。


「ふふ…螢ちゃん、数真くんのことよろしくね」

「遠いと云っても住み慣れた街だ。心配はないと思うが躰だけは気をつけろよ」


「は〜い」



機内でも、子連れの若い夫婦とあって皆んな親切だった。

タマモは気圧の変化に何度か泣いたが、その度に螢が抱いてあやすと泣き止んでくれた。

ミルクもよく飲むし、離乳食もよく食べてくれる。

ホントに手のかからない子だ。


人見知りをしないタマモは飛行機を降りる時も、皆んなから声をかけられてた。




日本から出て、丸一日かけて俺たちは自分たちの家に帰ってきた。


今日からはこの家が俺たち3人の家だ。


その日は飛行機での興奮もあるのか、なかなかタマモは寝なかった。

タマモより、俺たちの方が先に眠くなったはどだ…

それでも螢は嬉しそうにタマモを見ている。


大好きな螢が傍にいてくれて、子どもをあやしている。その光景が俺は嬉しかった。



次の日、俺たちは結婚の届けをだした。

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