第69話 家族への一歩

 血の繋がった自分の子どもでさえ育てるのは大変なことだ。

まして他人の子どもとなど…


しかし父さんは俺を育ててくれた。翔真の時もだ。

螢の父親もそうだ。


俺の亡くなった父親…今の俺とさほど変わらない齢で俺の父親になった。俺の世話はその父親が全てしてくれた。


俺は男として父さんたちには敵わない。

でも、いつかは超えたい。


俺は最初は父さんに言われて始めたが、螢と一緒にタマモの世話をしているうち、このままずっと一緒にいたいと思うようになった。


螢も一生懸命世話をしている。

このまま3人で家族としてやっていけたら…


タマモの父親になれたら、俺は父さんたちに近づける様な気がする。


問題は螢だ…

こんな俺の身勝手な遣り方に螢を巻き添えにしちゃいけない。

もし螢が無理だと言ったら…潔く螢の幸せを祈ってやろう。



辻宮の家に帰ると、小さい弟たちがキラと一緒にタマモをみている。螢は夕食の準備中だった。


「数くんおかえり」


螢が笑顔を向けてくれる。

彼女にいつ話そう…


早めに話さないと…そうは思っている。

でも中々言えない…

螢から「わたしは無理」そう冷たく背中を向けられたら…ついそんな弱気な事を考えて話すのを二の足を踏んでいる… 


4月になり、フランスに帰る日にちも迫っている…


「螢、話しがあるんだ」


タマモを寝かせ自分たちもベッドへ入ろうとしている時思い切って声を掛けた。


「どうしたの数くん…」


俺の思い詰めた表情に螢の顔も不安な顔に変わる。

俺は彼女の手を握り、何度か深呼吸をしてから螢の顔をゆっくり見た。


「フランスに帰る事なんだけど…」


話しを切り出すと、途端に螢の顔色が変わる。

そのうち眼から幾つもしずくを流し始めた。


「い…一緒に行ってもいいって…約束したのに…

お願い…連れてって…」


これには俺の方が慌てた。


「ほ、螢…俺の話しを訊いてくれ」

「だって…だって…」


泣き止まない螢を抱き締めた。


「螢、頼むから俺の話しを訊いてくれ…

俺…フランスにタマモを連れて行きたいんだ。

アイツの父親になりたい。こんな俺が父親だなんて笑っちゃうけど…俺、本気なんだ。

これは俺の我儘だから…螢に無理強いはしない。

螢の好きにしてくれ」


暫く抱き合ったまま沈黙が続いた。

螢からの返事が怖かった。


「数くん…」


やっと螢が話しかけてくれる。


「あ…あの…その話し…エイプリルフールだからじゃないよね…?」


彼女が遠慮気味に俺へ訊いてくる。


「ごめん…本気なんだ」


螢が俺の顔をじっと見つめる。


「あの…一緒に行ったら…お母さんになれる?」


俺は断られるかもと云う思いもあったのでびっくりしたが、その問いにゆっくり答える。


「他人の子を育てるには覚悟がいるぞ。

そのうち自分の子どもが出来た時、同じように自分の子どもとして見れるか?」


この質問は自分自身に対しても何度となく訊ねた質問だった。


「わたし…一緒に行きたい…お母さんになりたい。数くんと家族をつくりたい」


螢の言葉に、嬉しくて目頭が熱くなった。


嬉しかった。螢が俺と家族になりたいと言ってくれた。


「本当に…俺でいいのか?」

「数くんがいいの」



俺たちはその日も長いキスをした。


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