第68話 卒業
年が明け、三学期が始まると直ぐに卒業式だ。
名雲は理系の大学に進み、水之江は短大に行くそうだ。
卒業式の帰り、俺たちは4人でオープンカフェに入り色々な話しをしていた。
「来月にはフランスに帰るのか」
名雲が残念そうな顔で呟いた。
「螢ちゃんも一緒に行っちゃうの?」
水之江が螢の顔を覗き込むようにして訊いてる。
「う…うん…わたしは一緒に行きたい」
螢が頬を染めて俯いた。
「おい瀬戸、いつまで螢ちゃん待たせとくんだ?
夫婦同然の関係なんだからもう籍入れても良くないか?」
名雲がサラッと言った一言に俺も螢も固まった。
「まあ、卒業もしたし、もう避妊する必要ないんだしさ、今度こそ自分たちの子どもつくっても良いんじゃないか?」
螢は顔がトマトのように真っ赤に染まって、どうしていいのか判らず俺の腕にしがみついて顔を隠している。
「名雲、確かに俺たちは一緒に生活してるが避妊しなきゃいけないような事はして無いからな。
それに今度も何も、タマモは紛れもなく俺たちの子どもだから…」
俺も螢同様、顔を紅潮させ、照れ臭ささで視線を外して名雲たちに答えた。
俺の答えに、今度は名雲たちが固まった。
「そ…そうなのか?悪い…俺はてっきり…もうそう云う関係かと…」
「いや…いいんだ…」
俺も何だか恥ずかしくて手で顔を覆った。
『まあ…一度は俺が無理矢理してるからな…』
名雲たちと別れた後も、螢と何を話していいのか言葉に困った。
螢はフランスへ一緒に行ってくれると答えてた…
俺も一緒に来て欲しい…
だけど…
ひとつ問題がある…
「父さん…話しがあるんだけど…今いいかな」
俺は家に戻り父さんに時間をもらえないか訊いた。
「そこに座れ。真古都、数真にもお茶を淹れてくれないか」
「はい…」
「あ…あの、母さんにも訊いてもらいたいんだ」
俺は茶葉にお湯を注いでいる母さんに声をかけた。
母さんはお茶の用意が終わると一緒のテーブルに着いてくれた。
「改まってどうしたんだ?」
俺はどう説明しようか迷った。
母さんがカップに注いだ紅茶を俺の前に置いてくれた。紅茶の香りが緊張している俺の神経を落ち着かせてくれる。
「タマモの事なんだけど…」
俺は気持ちを固めて口を開いた。
父さんも母さんも黙って俺が言い出すのを待ってくれる。
「タ…タマモを俺の子どもとして育てたいんだ」
やっと言葉が出た。
まだ18の俺がこんな事を言ってもまともに取り合ってもらえないかもしれない…
でも…俺はずっと考えてた…
「螢には訊いたのか?お前たちは一緒になるんだろう?」
「螢には…まだ話してない。
父さんと母さんの許可が下りたら…その上で…螢がまだ俺と一緒になってくれるか…
タマモの母親になってくれるか…
訊いてみる…」
俺は父さんの顔を真っ直ぐに見てゆっくり答えた。
「お前はどうなんだ?やっと社会人になるお前に子どもを育てられるのか?
血の繋がっていない子どもを育てる覚悟がお前にあるのか?螢が嫌だと言っても、ひとりで育てる心構えがお前にはあるのか」
父さんは静かに俺に訊いた。
俺の話しをちゃんと訊いてくれてる証拠だ。
「何度も考えて決めたんだ。
血の繋がりなんて…俺と父さんにも無いし…螢の
ところだってそうだ…血の繋がりだけが家族じゃないと教えてくれたのは父さんたちだ…」
「判った」
そう言ってくれた父さんの声が聞こえた。
もう、後戻りは出来ない。
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