第67話 Christmasの出来事

 あれから尾野寺海帆は諦めたのか、俺の周りを彷徨うろつくことはなくなった。


一度俺への当てつけからか、キラに言い寄ったがキラは俺より容赦がなく、彼女が泣き出してしまうほど辛辣な言葉を並べ立て断っていた。

その後他のクラスにいる男子何人かと付き合い始めたらしい。


クリスマスは名雲たちと4人で一泊旅行だ。

走ったり、長時間は無理だが螢も大分歩けるようになっている。



「母さん悪いな、面倒頼んじゃって…」

「真古ちゃん、これマモちゃんの着替えとかです」


「二人とも大丈夫だから楽しんで来なさい」


母さんはタマモを抱いて笑顔で送り出してくれる。


「お兄ちゃんたち、あれじゃあまるでおばあちゃんに子ども預けて出かける新婚夫婦みたいじゃん」


「もう、吾古ちゃんてば…」 


「ははは…そりゃいいな、タマモをあいつ等に預けたの案外正解だったかもな」


翔吾は真古都の腕からタマモを抱き上げ顔を近づけた。


「タマモ、父さんと母さんがお出かけだから今日はじいちゃんのところで寝ような」

「あ〜」


翔吾が抱き上げるとタマモはニコニコと笑っている。


「ふふ…翔くん、おじいちゃん?随分格好良いおじいちゃんだなぁ」


真古都も思わず笑みがもれる。


「何言ってる、お前は可愛いおばあちゃんだぞ」


声を掛けた後、くちづけを交わす両親を見て、また始まった…と呆れるが、小さい頃からの見慣れた光景である。それでもやっぱり仲の良い二人を見て吾古はちょっぴり嬉しい気持ちになった。


なんだかんだと言っても、いつまでもこのベタベタ甘々な二人が、子どもたちにとって大好きな自慢の両親なのだ。




「螢、疲れたら寄りかかって寝ていいからな。遠慮するなよ」

「そうだよ折角皆んなで来てるんだから遠慮はダメだからね」


俺と水之江から言われて螢は子どものように素直に頷いていた。


電車とバスを乗り継いで、小さな湖畔の近くにあるロッジを借りてある。

今夜は4人でクリスマスパーティーだ。


着いてそれぞれの部屋に荷物を置くと、皆んなでパーティーの準備に取り掛かった。


料理に、ケーキに、飾り付け…

食べて、騒いで、それにプレゼント交換。


日頃は家の中にばかりいる螢だが、この4人だと気兼ねもいらないので本当に楽しそうだ。

連れてきて良かった。

フランスにいる時は我慢ばかりさせたから…


パーティーが終わって部屋に戻っても螢はずっと楽しそうだった。



夜間、俺は目が覚めてしまった…

まだ夜中だ、もう一度寝かけて隣で眠っていた螢がモゾモゾと起き出した。


「螢、トイレか?」


俺はそっと声を掛ける。


「ううん、ちょっと目が覚めちゃって…」


螢も眠そうな目を擦っている。


「なんだお前もか…」


俺たちは同じ時間に目が覚めた。

いつもならこの時間はタマモにミルクを作っている頃だ。


「ミルク飲んでるかな」


「アイツはたくさん飲んでよく寝るヤツだから心配いらないだろ」


「泣いて真古ちゃん困らせてないかな」


「母さんと父さんなら、タマモがどれだけ泣いても気にしないから大丈夫だ」


「明日帰ってわたしのこと忘れてたらどうしよう」


「おいおい、毎日世話をしてるお前のことを一晩で忘れる訳ないだろ。タマモにとってはお前は母親みたいなものなんだから」


俺たちはベッドに腰かけ、二人してタマモの話ばかりしている。


「わたし…お母さん、ちゃんと出来てる?」


心配そうな瞳で俺の顔を見上げて螢が言う。


「ちゃんと出来てる。いいお母さんだ」


螢が俺の顔を黙ったままじっと見ている。

そのうち少し目を伏せた。


「か…数くんも…いいお父さんだよ…」


遠慮気味に話す螢が堪らなく愛おしい。


「お前からそう言ってもらうと父親としてなんだか自信がつくよ…ありがとう」


「う…うん…」


螢が俺の胸のなかで頬を染めてる。

俺はプロポーズをしてるつもりなんだが…やっぱりさすがにこれだけ遠回しだと判らないか…


「螢、俺にもう一つクリスマスプレゼントくれないか?」


彼女の唇にそっと指を這わせる。


「今夜は…してもいいか?」


途端に螢は慌てた様子でオロオロしている。

俺は再び照明を落とすと螢をベッドに寝かせ、彼女の躰に自分の躰を重ねた。


「螢…メリークリスマス」

「メリー…クリスマス…」


俺はゆっくり顔を近づけると、長いキスを何度も彼女と交わした。


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