第63話 日本へ
「荷物はこれで終わりか?」
螢は頷いて教えてくれるが、なんだかまだ浮かない顔をしている。
「どうした螢、まだ心配してるのか?」
「そんな事は…無いけど…でも…」
煮え切らない返事が帰って来る。
「本当に、こっちに帰って来る時はわたしも一緒だよね?」
螢が服の裾を掴んで俺の顔を見上げて訊いた。
俺は屈んで螢の目線に合わせて答えた。
「大丈夫だ、約束したろう?」
俺は卒業後、小さな食品加工会社に就職が決まったのでその報告を兼ねて一度日本へ帰ることになった。
螢は日本に置いたままにされるのだと思い心配しているのだ。
確かに以前の俺ならそう心に決めていた部分もあったが、ホームパーティでの一件で図らずも螢の気持ちを知った今、どこまでも一緒だと心に決めた。
機内の中でも何かと不安そうなのが可愛い。
空港までは父親二人がお出迎えだ。
「お父さ〜ん!」
螢は父親が迎えに来て嬉しそうだ。父親の方もまた螢の声が訊けて喜んでいた。
「数真に泣かされてないか?
酷いこととかされてないか?」
「もう、大丈夫だってばぁ!」
相変わらず心配性な父親だ。
「先輩!聞き捨てなりませんよ!まるでウチの数真は直ぐ女を泣かすような男みたいじゃありませんか!」
「何言ってる!以前コイツは他の女に絡み付かれて払わずにウチの螢を泣かせてるんだ。これくらい心配してもバチは当たらん」
「チッ!」
この二人も相変わらずだな…
「ところで父さん、母さんは?具合でも悪いの?」
こんな時迎えに来ないなんて不思議だった。
「ああ…母さんは…」
そう言ったかと思うと憎々しげに螢の父親を見た。
「先輩の土産で、手が離せなくて仕方なく家で待ってるんだ。そうですよね、先輩!!」
苛つき気味のウチの父さんとは反対に少し開き直った感のある螢の父親…
家に着いてその意味が判った。
「あ〜あう…う〜」
「はい、はい、マモちゃんは抱っこかな〜」
母さんが赤ん坊を抱いてる…
「父さん、子供が出来たってなんで言ってくれなかったの」
「馬鹿言うな!俺の子じゃない」
えっ?俺の子じゃないって…
じゃあ誰の子なんだよ…
今更母さんが浮気なんてするはず無いし…
そう云えば螢の父さんの土産がなんとかって…
……まさか…?
俺は父さんの顔をもう一度見る…
「先輩の土産だ…」
螢の父親は雑誌記者だ。
カメラマンと一緒に外国の危険な場所へも良く行く。その時、孤児を連れて帰って来る事があった。
その為、螢には血の繋がらない兄弟が8人もいる。
「数真くん、お迎え行けなくてごめんね」
母さんが赤ん坊を抱きながら謝ってくれる。
「可愛いですね」
螢がこれから自分の兄弟になる赤ん坊に関心を寄せた。
「でしょう」
母さんは小さな赤ん坊を螢に抱かせている。
赤ん坊を胸に抱いて螢が微笑む。
螢は病気の所為で子供は諦めている。
だから余計、自分の胸に抱かれる赤ん坊に思う所があるのだろう。
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