第62話 慟哭

 「ねえ、行こうよぅ」

両脇に座ってる女たちがわるわる熱を帯びた瞳で俺を誘った。


「判った、外へ出よう」


俺は街へ出る為その場にいた8人に声をかけ家からでた。

食って飲んで、食欲の満たされたこいつ等が次に欲しいものは決まってる。


俺はギルトレットに伝えてくると言って皆んなを先に行かせた。


クソがっ!


急いで家に戻るとギルトレットが螢に酒を飲ませてるところだった。


「螢ちゃん、皆んな出かけたみたいだから俺たちもゆっくりしよう」


ギルトレットがそんな戯言を吐いて螢に近づいて行ったので後ろから止めた。


ヤツが振り向いた時胸ぐらを掴んで引っ張り出した。


「お前皆んなと行かなかったのかよ」


悔しそうな口調だ。


「俺があんな女たちと本当に行くと思ったのか?随分めでたいな。俺には螢だけだ。判ったらお前もさっさとあいつ等の所へ行け」


そう言い放つと、追い出すようにギルトレットを外に出しドアを閉めた。



キッチンへ戻るとどれだけ飲まされたのか、

酒に酔って頬を赤く染め、焦点の合わない瞳でボォ〜としている。


泥酔した螢にあいつが手を出そうとしてたかと思うと腹が立ってしかたなかった。


彼女を部屋に連れて行こうと背中に手を回すと、螢がいきなり騒ぎ出した。


「ダ…ダメッ!

わたしは数くんのお嫁さんになるんだから!数くん以外は嫌!」


俺は自分の耳を疑った。


傍にいるのが俺だと判らず暴れる螢に俺は我に返ると、彼女の耳元へ口を近づけて囁いた。


「こんな俺を…そんなに想ってくれてるなんて嬉しいな。

冗談とか、酔ってるとか、言い訳は訊かないからな」


嬉しくてどうにかなりそうだった。

胸の高鳴りに抗いながら螢を彼女の部屋へ送りベッドに降ろしてやった。


俺にしがみついてくる螢に俺の心臓が早鐘を鳴らし続ける。


しかも螢が潤んだ瞳を俺に向けて乞う。


「数くんが好き…何処にも行かないで」


「当たり前だ!お前の為なら俺はいつだって傍にいてやる」


少し震えながら強請る螢がメチャクチャ可愛かった。


「こんな…俺の傍で良いのか?」


俺は念を押すように顔を近づけて訊く。


「数くんがいいの…」


螢の熱い息が話す度俺の首筋をなぞる。

苦しい程の螢への衝動が俺を襲う。 


「お前が欲しい…お前を貰いたい」


「あげる…数くんに貰って欲しい」


螢が愛しくて、俺を好いてくれる言葉が可愛くて…二度と離したくないと力一杯抱き締めた。




朝、目が覚めると自分の部屋のベッドにいる。


「痛い…」


頭が痛い…

昨夜はそのまま寝ちゃったんだろうか…

何も覚えてない…


キッチンへ行くと数くんが昨夜の片付けをしていた。


「やあ、螢おはよう、気分はどうだ?」


「少し…頭痛い…」


数くんの声かけに、わたしは素直に答えた。


「昨夜は顔が真っ赤になるくらい飲んでたから二日酔いだろう。無理することないから…ゆっくりしてろ」


わたしは恥ずかしくなって俯いてしまった。


「ごめんなさい…わたし…全然覚えて無くて…数くんが運んでくれたの?」


「他に誰が運ぶんだ?」


数くんはそのままわたしの頭をポンポンと叩くと笑っていたので、益々わたしは恥ずかしくなった。



俺の可愛い螢…

お前が覚えて無くても、昨夜の事は俺はちゃんと覚えてるから…


大丈夫だ…

俺はお前と二人の未来の為に頑張るから…


お前の気持ちに応えられるようにするから…


それまで…余りに嬉しくて…あの後声を上げて泣いたことは内緒だ…








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