第61話 ホームパーティ
無事、修士号までいけた…
これは偏に螢のお陰だ。
俺は本格的に卒業後の進路を決めないといけない。
卒業後の目処がついてないのは俺くらいだろう…
「数くん出来たよー」
螢の声に食堂へ行くとたくさんの料理が並んでいる。
「見て見て!ケーキも美味しそうに出来たでしょ?」
6号のケーキが2ホール。
定番の苺と、チーズだ。
今日はギルトレットが学部のヤツを何人か連れて来るから朝から螢が用意していた。
内輪だけの細やかな卒業祝いみたいな集まりだが、場所が俺の家になったのはギルトレットが螢に近づきたいのと、他のヤツも少なからず変わり者の俺の彼女に興味があるからだ。
「よう、数真今日は邪魔するな」
「おう…」
ギルトレットは俺への挨拶などソコソコにさっさとキッチンへ入って行く。
こいつ!
「おじゃましま〜す」
ギルトレットの後ろから他に男が4人、女が4人入って来た。随分来たな…
「おっ、美味そう」
「すげぇ〜これ全部作ったのか?」
「へえ〜、数真の家って教会なんだぁ」
「何だか普通の家と違ってワクワクするね」
男どもは料理に目が行ってるが、女どもはあれこれ家の中を物色している…
やれやれ…これだから家に
それぞれ席に付き食卓を囲むと、その後は呑んだり食ったり大騒ぎだ。
あれも美味い、これも美味いとよく食う。
螢は予定より人数が多かったので、キッチンで黙々と追加の料理を作っている。
出来上がるとその都度俺が行ってテーブルへ運んだ。
「数真もこっちきて〜」
「そんなの彼女にさせればいいじゃない」
女たちも可成り酔ってて収集がつかない…
「数くん、ここは大丈夫だから皆んなと楽しんでて」
螢がまた俺に気を遣っている。
「折角のお祝いなんだから」
俺は螢に食堂へ押された。
「ほらほら数真もこっち来て呑めよ〜」
「早く早くぅ〜」
席に戻ると、俺の隣に女が座り酒を注ぎだした。
「乾杯しよぉ〜」
酔って潤んだ目で俺を見上げ躰を近づけてくる。
まさに乱痴気騒ぎが甚だしい…
「ねぇ、この後皆んなで街に出ない?
わたし、面白いお店知ってるんだ」
「おつまみもお洒落で美味しいからぁ」
何言ってるんだ?
螢が今夜のためにいつから準備してたと思ってるんだ!
「ねえ、行こうよぅ…偶には違う女の子も良いわよ」
意味有りげな笑いを含ませ腕を絡ませてくる。
「螢ちゃん…」
名前を呼ばれたので振り向くとキッチンの入口にギルトレットが来ていた。
「何か足らなくなっちゃった?」
ホームパーティの経験など一度もないわたしは、来てくれた人が楽しんでもらえるように、料理だけはたくさん作った。
「そんなに気を遣わなくてもあいつら酒さえ出しときゃ大丈夫だよ」
ギルトレットがわたしの手を握って話しかけてくる。
「螢ちゃんも飲みなよ、ずっと俺たちの為に動きっぱなしじゃん」
「わたしは…数くんのお友達に楽しんでもらいたいから…」
ギルトレットがワインのグラスを渡してくる。
「ほら、数真も両手に花で楽しんでるんだ、螢ちゃんも楽しまないと」
言われて食堂を見ると、数くんの両脇に座った女の子たちが彼のすぐ近くにいる。
それを見たらなんだか胸が苦しくなった…
「さあ、飲んでよ」
笑って勧めるギルトレットに促されてグラスに入ったワインを一気に飲み干した。
普段あまり飲まないアルコールを一気に飲んだので頭がポウッとなってきた…
これ…ワイン?
なんか…つよくない?
「どんどん飲んで」
わたしのグラスにまた注いでくる。
「あいつらこれから別な所で楽しむみたいだから…螢ちゃんはここで俺とお留守番だな」
数くんが?
あの女の子たちとでかけちゃう…?
なんだか少し辛くてわたしはまたグラスのワインを飲んだ。
あ…
なんだか…頭がクラクラする…
「螢ちゃん…皆んな出かけたみたいだから俺たちもゆっくりしよう…」
えっ…
ダメ…わたしは…わたしは…
何か…遠くで話し声がする…
暫くすると、わたしの躰を誰かが抱き上げようとしてきた。
やだっ…ギルトレット?
「ダ…ダメッ!
わたしは数くんのお嫁さんになるんだから!数くん以外は嫌ッ!」
「こんな俺を…そんなに想ってくれてるなんて嬉しいな…
冗談とか、酔ってたとか、言い訳は訊かないからな」
「えっ…? 数くん?なんで…?」
数くんは食堂を抜けて部屋まで行くと、わたしをベッドの上に降ろしてくれた。
「俺が、お前を置いて出かける訳ないだろ」
数くんの言葉が嬉しくて…思わず彼にしがみついた。
「数くんが好き…何処にも行かないで…」
きっとつよいお酒に酔ってたんだと思う…
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