第22話 転校生

 期末の終わった次の日、1年A組に一人の転校生がやってきた。

少しウェーブのかかった長い髪。

色白で整った目鼻立。制服の上からでもはっきりわかるスタイルの良さ。

先生が転校生である彼女の紹介をしている間、一部の生徒を除いて殆どの男子生徒は彼女に釘付けになった。


尾野寺海帆おのでらみほみんな仲良くするように」

先生のその言葉でホームルームが終わった。


彼女は人見知りしない性格なのだろう、その人懐っこさと明るさで、クラスの和へ馴染んで行くのにそれほど時間はかからなかった。


「瀬戸くん、これからみんなでカラオケ行くの。

一緒にどう?」

尾野寺海帆が数真に声をかける。

「俺は結構」

数真は素っ気なく断ると教室を出て行った。


「瀬戸くん、一緒に帰らない?」

「瀬戸くん、新しく出来たカフェに行かない?」


「海帆ちゃん、瀬戸くんなら誘っても無駄だよ。

中学から一緒だけど、あいつ付き合い悪いから…」


「え〜っ!同じクラスなのにそれじゃあ淋しいよ」


「海帆ちゃんは優しいからそう思うけど、今まで誰が誘ってもダメだったから…」


「でも、海帆ちゃんみたいな可愛い子から誘われたらそのうち来るかもね」


「ほんとぉ?じゃあわたし頑張っちゃおうかなぁ」

海帆と、女の子たちの笑い声が放課後の教室を賑やかにさせた。


それからというもの、海帆は数真に何かと絡んで来るようになった。

数真の方は、相変わらず素っ気ない態度だが、端から見ても判るほどの猛アタックぶりに、さすがの瀬戸も転校生の美少女に陥落される日も近いとクラス中で噂が飛び交った。


そんな状況に、心中穏やかでない人物がいた。

キラだ。


「おい、数真!お前大丈夫なんだろうな!?」

放課後、数真が一人になったのを見計らって聞き質した。

「何が?」

いきなり質問されても意味がわからない。

「尾野寺のことだよ!」


キラは螢から、男の子と上手く付き合い方の判らない自分の為に練習相手に数真がなってくれたのだと彼女から訊いている。

それなら、当然どちらかに好きな相手が出来れば交際は解消だ。


キラが大事な螢に、こんな馬鹿げた交際を認めたのには訳があった。

螢が、フランスにいる頃からずっと数真の事が好きなのを知っていたからである。


たとえ[お試し]とは云え、少しでも長く続けさせてやりたかった。


「尾野寺? あのうるさい蝿女か?」

蝿女って…あれだけグイグイ押されているのをそんなふうに感じてたのか?

「女だと思ってこっちも強く言わなかったが迷惑してるんだ!大丈夫も何も…これ以上続くようなら俺も黙っちゃいないから…そう思っててくれ」

数真はそれだけ言うとさっさと行ってしまった。


大丈夫とは訊いたが、大丈夫の意味が違うんだが…

螢を想って、意を決して訊いたのに、とんだ肩透かしをくった感じだ…

しかし数真だって男だ…あれだけの美少女に毎回毎回グイグイこられたら悪い気はしないだろう…

初めは迷惑に思っていてもそのうち絆されるって事も考えられる。


「螢が…変な噂を聞かなきゃいいんだが…」


悪い噂と云うのは得てして直ぐに広まるものである。

そして、それは螢の耳にも入って来た。











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