第21話 奇遇

 大学の講義も、今日は午前中だけだったので俺は早々に帰ってきた。

ヘタに残っていたらまた何を言われるか判ったもんじゃない!


山寺がペラペラと有る事、無い事喋りやがったから知ってるヤツはここぞとばかり俺を揶揄ってくる…


こっちは彼女どころか、どうやって友だちになろうか必死だって云うのに!


その時、駅前のショッピングモールから出てきた女の子が目に入る。

夕陽の様な赤毛を三つ編みしている高校生…

まさか…と思いつつも、友だちと楽しげに話をして歩く姿に息が止まりそうだった。


なんて奇遇なんだ!こんな時間に会えるなんて!

確か今は期末試験だと水之江が言ってた。

試験は終わったんだろうか…


いやいや…そんな事を考えてる場合じゃない!

今日は運良く水之江の妹と二人きりだ!

男共はいない!

声を掛けるなら今だ!


俺は逸る気持ちに待ったをかけながら、なるべく自然に見えるように水之江の妹の名前を呼んだ。


「やあ、彩希ちゃんじゃないか」

「真芝さん…どうしたんですか?」

水之江の妹は、俺に気付くと足を止めてくれた。


「君たちこそこんな時間にどうしたの?」

俺はすっとぼけて訊いた。


「期末試験です。今日やっと終わったの」

「そりゃあ お疲れ様。それで、どうだったの?」

「もうばっちりですよ!」

「良かったな、頑張った甲斐があったじゃないか」

水之江の妹は照れくさそうに笑っている。


俺は妹の方と話をしている間も、隣で聞いてる彼女が気になって仕方がない。

どうにか彼女とも話が出来ないだろうか…


「これからお茶にしようと思ってたんだ。

よかったら一緒にどうかな?

試験が終わったお祝いにケーキでもご馳走するよ?」


俺は思い切って二人に提案した。

別にまんざら知らない仲でもないし、第一向こうは二人だ。

警戒されることもないだろう…

これで断られたら仕方がない、今日は潔く諦めればいい。


「丁度、わたしたちもこれから喫茶店に行くところだったんです…どうする?螢ちゃん…」

妹の方が彼女に訊いている。


「彩希ちゃんが良ければ…お茶を飲む時間くらいなら…」


よしっ!俺は心の中でガッツポーズをとった!

これで少しでも彼女と話ができる!


二人が行こうとしていた喫茶店は、駅から少し歩いた一本路地を入った所にあった。


《My beloved》

こんな喫茶店があったんだ…


「螢ちゃんがね、よく瀬戸くんに連れて来てもらうところなんですよ」

席に着くと水之江の妹が教えてくれた。


「瀬戸くんって、この間迎えに来てた男の子?」

俺はそんな話を聞いて面白くなかったが、何食わぬ顔で訊いた。


「そうそう、螢ちゃんのことがご執心のベタベタ彼氏だよね~」

彼女は「もうっ」と言って頰を染め俯いてしまった。

くそっ!そんな風に想ってもらえるあの小僧が憎らしかったが、紅潮した顔の彼女はメチャクチャ可愛かった。


「俺は珈琲にするけど君たちは何がいい?どれでも好きなのどうぞ」

メニューを渡しながら彼女に笑いかけた。


「わたしは紅茶とホットケーキのセットにするけど、彩希ちゃんはどうする?」

「わたしはカフェオレとアップルパイ」


「えっと…俺も螢ちゃんて、名前で呼んでもいいかな?」

怪しまれないようにサラリと訊いた。

「あ…はい…」

彼女が俺の顔を見て言ってくれる。


「螢ちゃん、ここパンケーキが美味しいみたいだけど…ホットケーキでいいの?」

「わたし、ホットケーキが好きなんです」

俺はお店の女の子に注文を頼んだ。


彼女は紅茶とホットケーキを幸せそうに食べてる。

そうか…螢ちゃんはホットケーキが好きなのか。


「螢ちゃんの彼氏、メチャクチャ美形だよね。

彼、結構モテるでしょ?」

俺は他愛もない一般論として話を振った。

「メチャクチャモテますよ。なんたってあの顔ですからね…だけど螢ちゃんのこと一筋だもんね」

水之江の妹に言われてまた彼女の顔が赤く染まる。


「もう、彩希ちゃんたら…でも、わたしのこと凄く大事にしてくれるから嬉しいです…」

俺はこんな惚気を聞きたい訳じゃないが、とにかく今は少しでも仲良くなる方が先決だ!


名前呼びもOKもらったし、こんな風に間近で話が出来ると、彼女に対して欲が出てきた。










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