第19話 両親 

 4人で試験勉強をする為に瀬戸くんの家に行く。


「入れよ」

瀬戸がそう言って入って行ったのは小さな画廊だ。

俺も彩希ちゃんも迷ってると螢ちゃんが平気な顔で入口に向かい、入る前に教えてくれた。

「ここ、数くんのお父さんの画廊なの」


「何やってんだよっ!」


中に入るといきなり瀬戸の大声が聞こえる。

俺たちはびっくりしたが螢ちゃんはクスクスと笑ってる。

「おい、大丈夫なのか?」

瀬戸のあんな声を訊いて笑ってる螢ちゃんが不思議だった。

「いつものことだから」

螢ちゃんがあたり前のように笑ってる。


店の中に入ってすぐのところに、大きめの月の絵が飾ってあった。


「どうしたの数くん」

螢ちゃんが進んだ先に瀬戸と女の人がいた。

瀬戸は奥のドアから父親を呼んでいる。


「螢ちゃんいらっしゃい。また数真くんに怒られちゃった」

困り顔の女性を螢ちゃんが支えて椅子に座らせる。

「真古ちゃんが心配なんだよ。何してたの?」

「数真くんがお友だちを連れて来るって云うからお茶を入れようと思って…」


「そんなの螢がやるから!

螢…悪い、母さんの代わりにお茶頼む」

「うん」


螢ちゃんがカウンターに入ろうとした時、奥のドアが開いて男の人が入ってきた。

「数真の友だちか、ゆっくりしていってくれ」

俺と彩希ちゃんも慌てて頭を下げた。


「名雲淳史です。おじゃまします」

「水之江彩希です。おじゃまします」


「数真くんがお友だち連れてくるなんて初めてだから嬉しいね、

「だからって無理して数真に心配かけたらダメだろう

お互い名前呼びしたかと思ったら男性が女性の頰にキスをし、離したら今度はしっかり口にしてる!

しかも…長い…

俺たちがいるなんてまるで眼中に無い…



「ほらっ!俺たちこれから勉強だから!

父さんの部屋でやってくれよ!」

こいつ…両親のキスシーン見てどうしてこんなに平気な顔してるんだ?


「そうだな…じゃあ真古都行くか…」

「うん…」

母親が立ち上がったところを後ろから抱えて抱き上げた。所謂お姫様抱っこだ!


「みんなゆっくりしていってね」

母親が抱かれた状態で俺たちに手を振ってくれる。

俺も彩希ちゃんも言葉が出ず、ただ頭を下げることしか出来なかった。


「ったくもう!あれほど何もしなくて良いって言ったのに!」

いや…お前…気にしてるところが違くないか?

「真古ちゃん嬉しかったんだよ。きっと今頃、翔吾くんと二人で喜んでるよ」

螢ちゃん…なんで彼氏の両親名前呼びなんだ?


「そろそろ始めるか?」


何も言えずに固まってる俺たちを、瀬戸も螢ちゃんも逆に不思議そうだ。


「どうした?」

鞄の中から勉強道具を出して瀬戸が訊く。


「どうしたって…今の、お前の両親だよな?」

俺は瀬戸が教科書やノートを出してるテーブルに近づいて訊いた。


「そうだけど…あっ、やっぱりウチの父さん、

母さんに対して雑すぎか?

だからいつも言ってるんだ…何でもすぐ抱き上げてつれていくなって…タダでさえ偏屈で仏頂面なのに言葉遣いくらい優しくしろって……」

おいおいおいおいおいおいおいおいおい…


「違うって!」

瀬戸があんまり的外れな事を言い出すので俺もつい大きな声になってしまった。


「お前なんでそんなに冷静なの?!

お互い名前呼びだし…挙げ句に俺たちの前でも…

キ…キスしてるし…」


「そんなのだろ?」

「そんなのでしょ?」


瀬戸と螢ちゃんが返事を同時に返してきた。


ええぇーーーっ!!!










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