第18話 運命

大学の学食で昼食を摂っていた。

頼んだメニューを持って席につき、可成りの時間が経っているにも拘わらず、食器の中身は一向に減る気配がない…


俺は箸で食器の中身を突付きながら、昨日の出来事を思い返していた。


遊園地で偶々声をかけた女の子に、偶然友人の家で再会した。

あの後も、何故か彼女の事が頭から離れず気になっていたので、この偶然の再会はなんとも言い難い嬉しさがあった。

しかし彼女には付き合ってる彼氏がいる…

時間の遅くなった彼女を迎えに来た相手は、遊園地で一緒にいた男子だ。


友人の妹と同じ高一なのに、妙に落ち着いていて、それでいてアイドル並みの美形ときた…


妹の話だと、成り行きで付き合うところまでは成功したが、男の方は未だに好きだと告白出来ないでいるらしい。


子どもの時からの幼馴染みだから仲は良い。


俺は彼女が気になって仕方がない…

彼氏がいる女の子なのに…

一体どうしたんだ…

お陰で勉強も手につかない…


「あぁ~っ」

溜息と同時に頭を抱えた。


「おやおや真芝くん、何かお悩みかな?」

声をかけて来たのは同じ学部で、先日の遊園地でも一緒だった山寺洋輔やまでらようすけだ。


「別に…」

俺はこの男にだけは知られてはいけないと思った。

何故なら、こいつは口の軽いヤツだからだ。


「水之江くんから訊いたよ、お前好きな女が出来たんだって?」

「は…はあぁ?!」

俺はむちゃくちゃ焦った。


「普段は女にまるで興味を示さないのに、やたら水之江の妹に聞きまくってたそうじゃん」

「うるさい! そんなんじゃない!」

俺は昼食を諦め、席から立ち上がった。


「真芝くん、このまま諦めちゃうの?

遊園地で偶々声をかけた子に偶然再会するなんてこれは運命でしょう?」

「放っといてくれ!

彼氏のいる女の子に手を出すなんて非道な真似、

出来る訳ねぇだろ!」


しまった!

そう思ったが遅かった…

「な〜んだ、やっぱり気になってるんだぁ…」

ヤツは勝ち誇った顔を俺に向けている。


「ほらほら座って〜」

一旦立ち上がった俺の肩を山寺は掴むと再度椅子に座らせた。

「俺は忙しいんだよ!」

何とかこの場から離れようと足に力を入れるが、

逃がしてたまるかと言わんばかりに、顔は笑っているくせに肩を掴んでる手は少しも緩めようとしやがらない!


「真芝くん…少しでも気になるなら頑張るしかないでしよ?先ずは友だちから始めてみよっか?」

不敵に笑う山寺とは逆に、俺はこいつに知られたことでこれから先は不安要素しか思い浮かばない。



案の定、次の日学部へ顔を出すと…


「お、真芝。やっとお前にも春が来たんだって?」

「お前のハートを射止めた天使を今度紹介しろ」

「折角見つけたんだ、逃げられるなよ」


知り合いに会う度、冷やかしとも思える声が飛んでくる。


まだ知り合いにさえなれていないって云うのにこの有り様だ。

恥ずかしいやら、いたたまれないやら、俺は身の置き場に困り、この日の講義は少しも頭に入らない。


くそっ!

出来るなら俺だって何とかしたい!

せめて…

話がしたい…


友達に…なれないだろうか…

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