第17話 再会

 「はぁーっ」

珍しくいつも明るい彩希ちゃんが憂鬱な顔して溜息を吐いてる。


「どうしたの?」

さすがにちょっと心配になる。


「もうすぐ期末じゃないですか…わたし、中間あまり良くなくて…どうしても苦手な科目があるんですよ…」

情けない顔で教えてくれた彩希ちゃんには悪いけど、わたしは少し安心して胸を撫で下ろした。


「そんな事だったんだ、良かった…」

「あっ、ひっどぉーい!こっちは切実なのにぃ…」

彩希ちゃんがむくれた顔を私に向ける。


「ごめん、ごめん…もっと大変な事じゃなくて良かったと思って…」

「も〜ッ!」

「何が苦手なの?」

「数学と英語…特に文法が…」

「英語…少し見てあげようか?」

「えっ…ホント?」

泣きそうな顔が一変して明るくなった。


テスト期間中はバイトもお休みなので一緒に勉強する約束をする。

数くんのところは今日まで稽古があるので、彩希ちゃんと一緒に道場へ寄った。


「期末の勉強会かぁ〜

螢ちゃん、俺も彩希と一緒に面倒みてくれませんかぁ?」

「いいよ、期末まで彩希ちゃんと勉強するから都合の良い時いつでも来て」

「よしっ!お言葉に甘えて明日からお願い…

っあ、いてっ!」

数真が名雲淳史の頭を叩く。


「何、他の男ひとの彼女に勉強教わろうとしてんだよ」

見ると数真が面白くない顔で立っている。


「あれ? 瀬戸、もしかして嫉妬ヤキモチ?」

その言葉にみるみる数真の顔が赤く染まっていく。


「…っんなわけあるかよ!」

紅潮した顔での反論など誰も信じない。


「判った、判った。明日からは4人でやろうな」

名雲が揶揄い気味に笑って数真の肩を叩いた。

「…ちっ!」

舌打ちが数真に出来る細やかな反抗だ。


「あ~、でも場所どうする?わたしの部屋狭いから4人は無理だよ?」

暫く沈黙が続く。


「ちっ! しょ~がねぇ〜なぁ…

俺のウチへ来いよ…父さんに頼んどくから…」

数真が諦めたようにみんなに提案すると、名雲も彩希もそれに賛成した。


「その代わり!」

数真が少し大きめの声を出す。

「いいか、俺のウチが他の家よそと多少変わってても驚くなよ!」

この発言に名雲と彩希はあからさまに不思議な顔を見せるが、螢だけはクスクスと笑っている。


「か…数くん…わたしも行っていいの?」

螢は二人に聞こえないよう注意して数真に訊いた。


「何間抜けなこと言ってんだよ…

か…彼女なんだからあたりまえだろ…」

数真は螢の顔をマトモに見れず、そっぽを向いて彼女の頭を撫でた。


「今日は…帰る時迎えに行ってやるから…

ライン…しろよ…」

「うん」

笑って答える螢の頰が染まっている。




「ただいまーっ」

玄関のドアを開けると、家の中に向かって大きな声で帰りを知らせる。


「螢ちゃん、上がって」

「うん、おじゃまします」


二階にある彩希の部屋まで来ると、向かいの部屋から人が出てきた。


「彩希、今日は早いな…あれっ?友だち?」

部屋から出て来た男が螢がいるのに気付く。

螢は頭を下げて挨拶する。


「もうすぐ期末だから一緒に勉強するんだよ。

螢ちゃん、これウチの兄貴。」

そう言って彩希は自分の兄を紹介した。

「辻宮螢です。はじめまして」

螢はもう一度頭を下げた。


「螢ちゃん、部屋の中で適当に座ってて、今飲み物持ってくるから」

彩希は一階に慌ただしく降りていった。螢は彩希の部屋に入り、テーブルの近くへ座ると勉強道具を出し始めた。


「彩希ちゃん帰って来たの?」

兄の部屋から別の男が声をかけた。

「ああ、期末が近いんで友だちと勉強するらしい」

苦笑しながら閉めようとするドアの向こうを何気に目を向けると、向かいの部屋にいる女の子を見て息を呑むほど驚いた。


『あの時の子だ! まさか…こんなところで会えるなんて…』

男は運命だと思い、神が与えてくれたチャンスなんだとも思った。



「瀬戸くん来てくれるって?」

「うん」

そろそろ帰る時間になり、螢は数真にラインで知らせた。

「螢ちゃん教え方上手いから明日もお願いね」


部屋の外から話し声に来ていた友だちが帰るのが判る。

兄はドアを開けた。

「今から帰り?」

「はい、おじゃましました」

挨拶して顔を上げた時、兄の後ろにいた男と目があった。


「あ…」

彼女の表情から、遊園地での事を思い出したと判る。

「こんにちわ…偶然だね」

「なんだ真芝、知り合い?」

普段、女の子に声などかけたことのない友人が挨拶したのを見て幾分驚きを隠せず訊いた。

「いや…この間同じ学部のヤツらと遊園地に行った時ちょっと…」


「螢ちゃん行こう」

彩希が螢に声をかけた。

「これから帰るんじゃ女の子一人で危なくないか?兄ちゃん送ってくぞ」

妹の友だちを兄が心配した。


「大丈夫!迎えが来るから」

「お迎え?」

「そう、螢ちゃんにベタベタご執心の彼氏くんだよ、 ねえ?螢ちゃん」

「もう、彩希ちゃんてばっ、そんなんじゃないよ」


そう言いつつも螢の顔は真っ赤だった…












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