第16話 同級生

 俺と螢は手を握ったまま移動した。休日は人も多く、子供連れも多い。

二人の間に平気で飛び込んでくる子供もいる。

俺は二度と螢が迷子にならないように、彼女の手をしっかり握っていた。




瀬戸たちとは11時半に総合案内所前で落ち合う事になってる。

「まだ時間あるからもう一つくらい乗る?」

「いいよ、あんまり混んで無さそうなの行こうか」


思い切って告白してから、彩希ちゃんは俺の彼女になってくれた。

俺は初めての彼女に毎日浮かれまくっている。


総合案内所に瀬戸たちはまだ来ていなかった。

「俺、案内図貰って来るからちょっと待ってて」

「判った。わたしは瀬戸くんと螢ちゃんがすぐ判るようここにいるね」

中に入って行く淳史くんに手を振ると、瀬戸くんたちが来たらすぐ判るようパーク側に躰を向けて立っていた。



「あれっ? 水之江?」

自分の名前を呼ばれた気がした。


「やっぱり水之江じゃん。お前も来てたの?」

その声がする方向に顔を向けると、中学の同級生がわたしを見て近づいて来る。


草間そうまくん…久しぶり…」

草間克弥そうまかつやわたしが中学2年の時、

一大決心で告白した相手だ。

折角楽しんでるのに…正直こんな所で会いたくはなかった。


「わたしは友達のカップルと来てるんだけど、

草間くんは彼女さんと来てるの?」

草間くんはわたしを振った後、わたしと仲の良かった三上真澄みかみますみと付き合った。


「あ…いや…俺もクラスの連中と来てるんだ」

わたしの問いに笑みが消え、一緒に来たであろうグループを指さした。

そこには複数の男女が固まって楽しげに談笑しているのが見えた。


「草間くん、相変わらずモテるね。でも彼女さんが居るんだから良くないよ」

わたしは笑って揶揄った。


「俺…三上とは別れたんだ」

ちょっと困った表情を見せて、指先で頭を掻き始めている。


「その事でお前にはずっと謝りたいと思ってたんだ…ほら、告白してくれた時…酷い事言っちゃっただろ?」

草間くんが申し訳ない顔をしているが、今更言われても…


「あれ…三上が男子に話した嘘だったんだ…

それを俺も信じちゃって…3年になってクラスも変わったから謝れなくて…悪かったな…」

「もういいよ」

わたしは笑って答えた。

それ以外の対応を思いつかなかったから…


草間くん…早くみんなの所へ戻れば良いのに…


「彩希ちゃんごめんねー」

運良く、瀬戸くんと螢ちゃんが来てくれた。


「草間く〜ん、案内図貰ってくれたぁ?」

わたしと話をしてたから、待ちくたびれた草間くんたちのグループもゾロゾロやって来る。


「えっ…やだぁ…凄いイケメン!」

草間くんのグループにいる女の子たちが瀬戸くんを見て騒ぎ出した。

そんなのはよく見る光景なので、別段驚きはしなかったけど、一緒にいる螢ちゃんは嫌だろうなぁ…


「おい、水之江 名雲はどうしたんだ?」

淳史くんの姿が見えないから瀬戸くんが訊いてきた。


「遅くなってごめん」

そこへ淳史くんがちょうど帰って来てくれた。

彼の顔を見たら何だかホッとする。


「ねえねえ、草間くんの知り合い?折角だから一緒に回らない?」

「そうだよ〜 大勢の方が楽しいし〜」

心做しか、彼女たちが瀬戸くんに近寄って話しかけてる。 


「俺は彼女以外の女と遊ぶ気はない。名雲は?」

「おいおい、そこは同意見に決まってるだろ」

男二人の意見に思わずわたしも螢ちゃんも笑ってしまう。


「そう云うことだからまたね」

わたしは草間くんに手を振ると、その手をいきなり掴まれてびっくりする。


「水之江、彼氏出来たの?」

わたしに彼氏が出来たって今更草間くんには関係ないのに…

手を掴むとか、淳史くんがいるのにやめて欲しい…

「うん、先月付き合ってくれって言われたから…

断る理由も無かったし」


草間くんに掴まれた手が振りほどけず困っているのを淳史くんが助けてくれた。


「悪いが、コイツ今は俺の彼女だから…

他の男ひとの彼女に触れるとか、あり得ないだろ!

やっと口説き落としたんだから邪魔しないでくれ」

淳史くんは自分の方にわたしを引き寄せたあと、優しく螢ちゃんの方へ押してくれたが、草間くんには凄い顔で睨んでる。


淳史くんに、《俺の彼女》って言われて何だか顔が熱い…






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