第15話 遊園地

 「遊園地?!」


「うん、今度のお休みに4人で行こうよ!」

彩希ちゃんが遊園地に誘ってくれる。

わたしはなんて答えていいのか迷って数くんの方を見た。


「お前、いつもチビたちの面倒ばかりで一人で楽しんだこと無いだろ?」

数くんは紅茶のカップを口に移す時、わたしの顔を見ずにボソッと言った。

凄く嬉しかった。


「じゃあ決まりだね!」



花屋の定休日、俺たち4人は遊園地に来た。


「どれでも好きなの乗っていいんだぞ」

螢の分のチケットを渡しながら伝える。

螢はチケットをまじまじ見つめて、嬉しそうにしているものの、どのアトラクションから行こうか迷ってるみたいだった。


まあ、確かに…いつもは小さな弟や妹の後についてチビたちが楽しんでるのを見てるだけなんだから…

いきなり好きなの乗ってもいいと言われても、どれに乗ればいいか迷うよな…


「なら、取り敢えず俺と一緒に一通り回ってみるか?」

園内を見回しながら迷ってる螢に俺が提案すると、たちまち彼女の顔がぱあっと明るくなった。


名雲たちとお昼の時間と場所を決め、別々に回ることにする。


螢はアトラクションに乗る度子どものようにはしゃいでいる。

彼女が楽しんでるのを見ると、連れてきて良かったと思う。

螢が俺に向けてくれる笑顔が小さい時からずっと好きだった。


「ありがとう数くん」

満面の笑みとその言葉に、子供ながら物凄く嬉しかったのを覚えている…




気がつくと螢がいない!

辺りを見回すと少し後ろの方に彼女の姿を見つけた。

『何やってんだアイツ…』

男が3人螢を囲んでる。


「どうしたんだ螢…」

直ぐに彼女に近づいて声を掛ける。

「数くん…」

俺の顔を見て安心したのか、泣きそうな顔が少し明るくなる。


「彼女、俺の連れなんですけど…どうかしましたか?」


螢と一緒にいた男たちは大学生かと思われた。

螢は俺の背中に隠れるように立ってる。


「あ…いや…驚かせたならごめん…

一人で泣きそうな顔してるもんだから…

ちょっと声をかけただけだよ…

連れが見つかったなら良かった」

3人の中で、螢に話しかけていた男が俺に笑って説明してくれた。

俺たちは頭を下げて再び二人で歩き出した。



迎えに来た友人と離れて行く後ろ姿を、名残惜しそうに先程の男が見つめている。

泣きそうな顔で誰かを探している様子がどうしても放おっておけなくて声をかけてしまった。


「残念だったね~真芝くん。

あのイケメンにーちゃん多分彼氏だよなぁ…

折角、堅物の真芝が女の子に声かけたのにね…」

「うるさいな!そんなんじゃない!」

揶揄う友達に背を向けるも、その顔には少しがっかりした表情があった。

『クセ毛の赤い髪が可愛かったな…』



「螢…ごめん…気が付かなくて…」

「数くんの所為じゃないよ…わたしの足が遅かったから…」

笑ってくれる螢の手を握った。


「ひ…人が多いから…手繋いでやるよ」

俺は歩き出した。

「数くん…ありがとう」

後ろから螢の声が聞こえてくる。

顔が熱くて…螢の方を向けなかった…


「おう…」

短い返事を返すのがやっとだった…







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