第14話 交際
稽古が終わって着替えを済ませ、俺と名雲は校門の方へ歩いて行った。
校門のところで女の子が待っている。
水之江だ。
「お待たせ、まった?」
名雲が水之江に気づくと声をかけた。
「大丈夫だよ」
水之江の方も俺たちを見つけて走り寄って来た。
「瀬戸くん、俺この後水之江さんと用があるから、
また明日な」
「瀬戸くんまたねー」
「お…おう」
二人で仲よさげに帰っていく姿を見て俺は呆気に取られた。
『あいつらいつの間に一緒に帰るほど仲良くなったんだ…』
「水之江さん、ここでいい?」
俺は喫茶店の前で彼女に訊いた。
「いいよ」
二人で店内に入り、窓側の隅に席を取った。
水之江さんが道場まで瀬戸くんを訪ねてきた時、
一緒にいた俺も名前を聞かれ友達になった。
瀬戸の恋を応援すると張り切っている。
水之江さんは明るくていい子だ。
あれから作戦会議と銘打って2回ほど学校帰りにお茶を飲んだ。
作戦会議といっても、殆どが他愛も無い話。
それでも彼女といると楽しかった。
それまで、特定の女の子と付き合った事が無かった俺は、こんなふうに女の子と一緒の時間を過ごせて浮かれてたのかもしれない。
『まいったな…俺…水之江さんが好きかも…』
聞き上手の彼女は、口下手な俺のつまらない話しもちゃんと訊いてくれる。
そんな彼女に、自分の感情が変わるのに時間はかからなかった…
俺はたまの学校帰りではなく、休みの日に彼女を誘いたくなった…
「あれっ?名雲くんバイト探してるの?」
バイト雑誌を捲ってる俺に水之江さんが訊いた。
「あ…ああ…」
「そっかあ…わたしのバイト先は瀬戸くんもいるけど花屋だからなぁ…」
俺は少し邪だが、同じバイト先ならもっと水之江さんと話す機会もあるんじゃないかと思い訊いてみた。
「水之江さんのところ…まだ募集してる?」
「してるけど…花屋だよ?力仕事や水仕事も多いし、結構地味で大変だよ?」
水之江さんと一緒にバイト出来るなら地味で大変でも構わないと思った。
実際働き始めると、思ってたよりずっと力仕事も多く、大変な作業だったがお金をもらう以上真面目に取り組んだ。
勿論、瀬戸くんのために水之江さんは俺と仲が良いんだと周りに思わせた。
呼び方も〈水之江さん〉から〈彩希ちゃん〉に変える。
初めて名前呼びする時は嫌がられたらどうしようかと思ったけど、照れながら「それじゃあ、わたしも淳史くんて、呼んで良い?」なんて言われて、心臓が木っ端微塵になるかと思ったほどだ…
俺は一大決心をして彩希ちゃんを休日に誘う。
駅前で待ち合わせをして、先ずは映画に行った。
食事をして…買い物して…
「今日は誘ってくれてありがとう。楽しかった!」
「彩希ちゃん…」
緊張で、手に汗が滲む…
「き…君のことが好きになった…俺の彼女になってくれないか…」
俺は飲み物を買おうとしてる彼女の後ろ姿に向かって告白した。
「酷いな…男の子からそんな事言われたの初めてなのに…自販機の前なんて…」
「あっ…ごめん…」
俺は慌てて謝った。
情けないが、顔をみて上手く言い出せず、思い切って気持ちを暴露したらちょうど彼女が自販機に向きを変えたところだった。
「嘘…淳史くんらしいかな」
笑顔が可愛い…
沈黙が続く…
「あ…あの…返事はいつでもいいから…」
告白したものの、考えてみたらOKが貰えるとは限らないことに今更ながら気付いた。
それに…
さすがに振られるにしたって告白したと同時なんて悲しすぎる…
「あ…淳史くん…なんで…わたし?」
彩希ちゃんが俺に訊ねてきた。
「軽そうだから簡単に落とせると思ったの…?」
先程の笑顔は消え、俯いている。
「何、訳の判らない事言ってるんだ?
そりゃあ…知り合ってからまだ日も浅いし…
そう思われても仕方ないけど…
俺…本当に彩希ちゃんが好きだよ…」
振られるならまだしも、突然意味の判らない事を言われて俺は狼狽した。
「中学の時…好きな人がいて…思い切って告白したの…そうしたら…お前みたいに軽い女勘弁してくれって…わたし…男子からはそんなふうに見られてたみたい…」
俺は怒りで拳を強く握る。もしその男が今目の前にいたら迷わずぶん殴ってた。
「わたし…男の子と出掛けたの初めてだったから…凄く楽しかった…でも…遊びなら他の子にして…」
「そんな事、あるわけ無いだろう!」
彼女の言葉を遮るように声を荒げた。
「俺は…彩希ちゃんをそんなふうに思った事なんか一度もない! 俺の…彼女になってください…
俺にとって…君は特別な女の子だから…」
「本当にわたしでいいの?」
「彩希ちゃんがいいんだ」
その日、俺に彼女が出来た。
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