第13話 告白

 部活のある日は演劇部に寄り、螢の顔を見て自分の同好会に行く。

帰りは俺より早く終わる螢が俺のところへ来てくれる。


着替えが終わって外に出ると、女子が二人俺を待っていた。


「瀬戸くん」

片方が俺に声をかけてきた。

俺は立ちどころに不愉快な気分になる。


「この子、中学の時からずっと瀬戸くんが好きだったのよ ほら蓮実はすみ…」

一緒にいたもう一人の女を俺の前に押し出す。

何度となく、俺を不快にしてきた茶番が再び目の前で行われようとしてる。


「あ…あの…瀬戸くん…ずっと好きでした。

お手紙、読んでもらえませんか?」

頰を染めながら俺を上目遣いで見上げてくる。


「俺に彼女がいるのを知らないのか?」

俺は訊いた。


「知ってます…でも…どうしても諦められなくて…」

俺をじっと見つめる瞳が心做しか潤んでいる。


「この子、こんなに可愛いのに、他に彼氏も作らずにずっと瀬戸くんだけを好きだったんだよ。

彼女の気持ちを汲んでやってくれないかな」

連れの女が此処ぞとばかりに彼女のアピールをして売り込んでくる。


「気持ちを汲むね…一体、俺にどうして欲しいんだ?」


「ど…どうしてって…あの…まず手紙を読んでやって、この子がどれだけ瀬戸くんを好きか判ってくれたら彼女の気持ちに応えてあげて欲しいの」


俺は目線を手紙を持ってる女に移す。


「お前もそれを望んでるのか?」


「わたし…瀬戸くんが好きなの!彼女がいてもいいわ!少しでも付き合ってもらえたら絶対わたしの方がいいって言わせてみせる!」


その時、校舎の向こうから来る螢の姿が見えた。


「おい、螢」

俺は彼女の名前を呼びながら手だけを動かし、こっちに来るよう促した。


螢は、俺の傍に女子が二人いるのを目撃すると、少し不安げな表情を見せてはいるが近くまで来てくれた。


「か…数くん…」

螢がか細い声で俺を呼ぶ。


「丁度いいところへ来たな。

螢…俺の質問に答えろ」


彼女たちの前で、いきなりそんな事を言われ、螢は少しまごついている。


「もし…俺よりイイ男がお前を好きだと言ったら俺を捨ててそいつと付き合うか?」


予想もしていなかった質問に声が出ない様子だ。


「遠慮はいらない…正直に答えろ」

俺は真っ直ぐ螢を見た。


「わ…わたしは数くんだけだもん!

数くんが…わたしを彼女だと思ってくれてる間は、どんな人に何を言われても数くんを裏切ったりしないよ!」


螢が泣きそうな顔で答えてくれる。

くそっ! 涙が出るくらい嬉しい!


女二人は、何が始まったのか困惑している。


「それじゃあさあ…彼氏がいてもいいから試しに少し付き合ってくれって言われたら?」


「そ…そんな道理に外れた事する訳ないじゃん!」


俺は螢を胸の中に閉じ込めた。


「それ…本気にしていいか?」

顔を覗き込んで訊いた。

螢は他の女の前で抱き締められて、恥ずかしかったのか顔を紅潮させて頷いた。


「だ…そうだ」

俺は勝ち誇った笑みを漏らし女たちに目を向けた。


「これだけ彼女に想われてるんだ。同じ想いで返すのが男だろう?

悪いが、俺はお前たちが言うような非道なマネは出来ないんで、精々自分たちに見合った誘われれば直ぐについていく節操のない男を探してくれ」


彼女たちの顔が、今までのしおらしさから一変して、物凄い顔で俺を睨んでくる。

大体、お門違いだろ?

彼女がいる男に告白して上手くいくと思ってる時点でどうかしてる。


「俺は、螢以外の女と付き合うつもりはないから…よく覚えておくんだな。

行くぞ、螢」

俺は螢の背中を帰る方向へ軽く押した。

「う…うん…」



数くんは何も言わないけど、さっきのって…

きっとまた告白されてたんだ…


わたしは胸の奥が苦しくなる…


さっきの子…わたしなんかよりずっと可愛かった…


わたしが彼女なのに…

わたしが相手なら簡単に取れると思われてるんだ…

だけど…数くんはわたし以外の女の子とは付き合う気は無いって言ってくれた…

嬉しかった…


数くん…

少しでも長く彼女にしててね


誰よりも大好きだよ…



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