第12話 演劇公演会
近隣の小学生を対象とした演劇部の公演会が行われた。俺も名雲と水之江の3人で見に行った。
低学年向けに【浦島太郎】
中、高学年、一般向けに【人魚姫】
浦島太郎では、主人公が龍宮城に連れて来られた時
彼をもてなす為に舞を踊る鯛や平目の1人。
人魚姫では、主人公の人魚姫と一緒にいた姉たちの1人を螢は演じていた。
この日は小学生とは別に一般にも開放してるので、他校の生徒も可也り見かける。
お目当ては演劇部の美男美女である、
終演後の挨拶では、
間近でアプローチ出来る絶好の機会だ。
会場では、《颯也くん素敵》だの、
《咲良ちゃん可愛い》などと云う声があちこちで聞かれる。
俺の近くに座った他校の男子生徒たちも志摩村咲良を見に来たようで、彼女を絶讃している。
「やっぱり咲良ちゃん可愛いよな。あんな子が彼女たったら最高だな〜」
「今だに彼氏なしだろ?誰が彼女のハートを射止めるのかなぁ…」
溜息混じりでまだ見ぬ彼氏の話しをしているが、
その相手が自分であったらと云う細やかな希望は捨てきれないようだ。
「志摩村咲良も確かに可愛いけどさ、所詮は高嶺の花じゃん…だったら俺…さっきの赤毛の子が可愛かったなぁ…」
多分、螢の事を言ってるのだろう。
「おい、あんなに食事も喉を通らないほど咲良ちゃんにお熱だっただろう!」
隣に座っていた男が、螢を可愛いと言った男を小突いている。
俺はこの男の姿を目に映し、同時に胸の奥にざわざわと妙な空気が通り抜けていくのを感じた。
『他の男も螢を気に入って…言い寄って来たら…』
螢は俺だけだと言ってくれた。
でもそれは俺たちが付き合うことにしたからであって、俺自身を好きな訳じゃない…
もし、他の男が螢を気に入って…
アイツもその男を好きになったら…
一度芽吹いた不安はたちどころに育ち、心の中に幾つもの不安の花を咲かせた。
【人魚姫】の劇も終わり、みんな帰り支度をしてる。
この後、着替えが済んだ演劇部の部員たちは挨拶のため外へ出て帰っていく来場者へお礼を述べる。。
他校の生徒などは、ここぞとばかり花や贈り物を渡しに主演の錦野や志摩村に声をかけるのを楽しみにしている。
「悪い、俺ちょっと先に出るわ」
不安で、早く螢の顔が見たい俺は名雲たちに断った。
「この後みんなでお茶に行かないか?」
「判った」
俺は名雲の誘いに答え講堂の外に向かった。
「颯也くん素敵でした!」
「ありがとう」
「咲良ちゃん良かったよ」
「嬉しい!」
さすが、主演二人の周りは人が凄い…
「あ…あの…」
「?」
声のする方へ顔を向けると、他校の男子が何人かで立っていた。
〔おい、
〔あ…ああ…〕
わたしは
「
その声に他校の男子たちも慌てだした。
「役の激励は彼氏の俺としても嬉しいが愚弄は遠慮して欲しいな」
俺は螢の横に立ち、男共を睨みつけた。
「か…彼氏?!」
男共は俺を見て戸惑っている。
「ああ…コイツは俺の彼女なんだ…
そうだな、螢」
螢を自分の方へ引き寄せると、肩を抱いて訊いた。
「もうっ…数くんてば…人前で言われると恥ずかしいよ…」
俺の胸で、頰を染めながら名前呼びするのを見れば誰も俺たちの仲を疑ったりしないだろう。
極めつけは俺のムダに目立つこの顔だ…
余程の事がない限り顔で俺と張り合おうなんてマネはしない。
この時ばかりは俺も父親似の顔に感謝した。
「俺たち劇が良かったって言いに来ただけだから…」
男共はあたふたと俺たちの前から離れて行った。
「螢、お疲れ。名雲たちがこの後お茶に誘ってくれてるんだ。行くだろ?」
「うん…」
含羞んで俺の胸で笑顔を見せてくれる彼女に好きな気持ちが止まらない。
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