第9話 知らせ
あれから螢の顔を見に行ってない…
稽古に行く途中、演劇部の前は下を向いて足早に通り過ぎるようにしてる。
螢が…あの男と仲良くしてるところなんか見たくないし…
もし見たら…自分の気持ちが制御出来ないかもしれないからだ…
バイトでも何故かお互い相手を避けていて、話しもしていない。
「最近どうしたの?調子悪そうだよね…」
いつも一緒に稽古している名雲が気にかけてくれる。
「まあ…ちょっと色々あって…」
俺は言葉を濁した。
「瀬戸く〜ん!」
この声は水之江だ。
「良かった部活始まる前で…教室行ったらもう部活行ったって聞いたからさ」
水之江は走って来たのか、少し息が上がっていた。
「何しに来たんだよ」
俺はいつもの調子で答えた。
「瀬戸くん、女の子にそんな言い方ダメだよ…もう少し優しく言わないと…」
まさかの名雲が俺に意見した。
「あ~大丈夫、大丈夫!
こう云うヤツだって判ってるから」
水之江はあっけらかんと笑って名雲に答えてる。
「でも…好きな人には優しくされたいだろ」
名雲のその一言に一瞬二人とも固まった。
多分、水之江を他の無遠慮に覗きに来る女たちと同じ類だと思ったようだ。
それで水之江は大声で笑い出した。
「ないないこんなヘタレなヤツ…」
彼女は顔の前で手を振りながら断言する。
「うるせぇよ! なんだよヘタレって!」
向きになって文句を言う俺に名雲は目を丸くしている。
「わたし、一年C組の水之江彩希。瀬戸くんとはバイト先が同じよしみで彼の応援団してるの。良かったら名前教えてもらってもいい?」
固まって俺を見ている名雲に水之江は自分の名前を教えていた。
「俺は一年B組名雲敦士。よろしく…
だけど応援団って何?」
名雲の方も笑顔で答えてるが“応援団”には訳が判らず不思議な顔になる。
「おいっ!名雲に変な事言うなよ!
大体お前が勝手にやってることだろ!」
俺は熱くなった顔を拳で隠しながら慌てて言った。
「瀬戸くん…顔、赤いよ」
名雲の一言に俺は撃沈した…
「それより応援団て?」
名雲が水之江に訊いている。
「水之江やめ…」
俺が止める間もなく水之江は話し始めた。
「瀬戸くんに告白をさせる応援団!
好きな女の子がいるのに“好き”だって言えないんだよ…ありえないでしょ?
だから二人の仲を取り持とうと思って!」
水之江はやる気満々な顔で説明している。
それとは反対に、名雲の方は俺を見る目が訝しげだ。
「なんか…イメージ狂うな…
瀬戸くんて…女の子にはいつでもスマートに対応するヤツかと思ってたのに」
俺は顔の熱がおさまらない…
「でしょ? でしょ? でしょ?」
水之江が嬉しそうに名雲の腕を掴んで明るい声を上げた。
「なんかさぁ…普段とのギャップを見ちゃうと逆に応援したくなっちゃうじゃない?」
「でもさ…瀬戸くんの傍に水之江さんがいたら相手の子…誤解しないかな?」
名雲の冷静な一言が俺と水之江を凍りつかせる…
「え~っ、うそぉ…わたし失敗した?どうしたら良い名雲くん…」
水之江は考えても見なかった事を言われ、あたふたと名雲の袖を掴んで泣きついている。
「そう言われても…ところで、今日はどんな用で走って来たの?」
名雲は水之江を宥めるように優しく訊いた。
「ああ…あの…毎年ウチの学校が近隣の小学生に劇を観せる公演会が今年もあって…
ただ今回は人手が足りなくて人形劇のスタッフも駆り出されてるんだって。
勿論、裏方の作業が殆どなんだけど、女子の何人かは端役として出演するって。
それに螢ちゃんも出るから誘いに来たんだよ…」
水之江は少ししょげた様子で自分が来た目的を話した。
「じゃあ俺も行くから3人で行かない?
水之江さんは瀬戸くんの隣だと相手の女の子が誤解するといけないから俺の隣でどう?」
なんだかんだ、名雲はちゃっかり水之江にアプローチしている。
「ホント?ありがとう!」
水之江の方もまんざらじゃないらしく、名雲の提案に笑顔で返していた。
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