第7話 放課後

 「ご馳走さま…」


「お兄ちゃん、高校に入ってからなんか変わったよね」

さっさと食事を終わらせて自分の部屋に戻った兄を見て三女の吾古あこが言った。


「好きな女でも出来たんじゃん」

翔真が妹の言葉に答えるように言った。


「えーっ!お兄ちゃん彼女作っちゃうの?」

吾古は残念そうだ。


「お兄ちゃんだってもう高校生だもん…

彼女さんくらい欲しいんじゃないかな」

不満気な顔をする吾古に母親が声をかける。


「だってお兄ちゃん、ウチの学校でも憧れてる子いっぱいいるんだよ…彼女出来たらみんなショックだろうな…」

「その時は纏めて俺が面倒みてやるよ」

横から翔真が口を出す。


「ちい兄はダメだよ」

妹から即答される。

「どうして?!」

翔真が向きになって聞き返した。


「ちい兄彼女と長続きしたこと無いじゃん…何でか知ってる?独占欲強くて重すぎるって、別れた彼女の妹が言ってたよ…」

その言葉に一同固まった。


「バ…バカヤロー! 大きなお世話だ!

大体、いい年していつまでもこんなお花畑みたいなベタベタ甘々な両親に育ったんだぞ!これが当たり前だって思うだろーが!

言っとくけどな!兄貴だって、あんな冷めた感じに見せてるけど俺なんかよりずっと重たい男だからな!!」

これには翔吾も真古都も返す言葉が無い…




放課後は休まず稽古に向う。

別にこれと言って古武術が気に入った訳でもない…

色んな部室が並ぶ一番奥の狭い物置の様な教室がウチの部室だ…

そこで着替えて、柔道部の道場を借りて稽古する。


しかし、俺の目的はそこじゃ無かった…

途中にある演劇部に螢がいる。

不謹慎だが、螢の顔が見れるので毎日欠かさず稽古に通っている。


「螢、変わりはないか?」

俺は隅の方で他の部員と練習してる彼女に声をかける。

「ありがとう数くん、大丈夫だよ」

螢が俺に遠慮がちに笑って答えてくれる。


演劇部に行くと必ずあの女が近くにやって来た。螢の人形を鷲掴みしてたヤツだ。


「瀬戸くん、今日も辻宮さんのところ?」

猫なで声で話してくるこの女が俺は苦手だったが、また螢にあんな真似されては堪らない。


「いつも邪魔をして悪いな。ウチは親戚みたいなものだし、出張がちな螢の父親からも彼女のことは気にかけてくれと頼まれてるんだ」

まるっきり嘘でもないし、螢の顔を見にこれるなら適当な事でも何でも平気で言った。


「瀬戸くんて優しいのね…

ウチはいつ来てもらっても大丈夫だから遠慮しないで!

それに…たまには演劇部も見て行ってね」

この女から腕を掴まれそうになったので、物を落としたふりをしてかわした。


「ありがとう志摩村さん」

そう女に言ってから、

「螢、行ってくる」と、螢を見て言った。

螢はいつも小さく手を振ってくれる。


よしっ!

これだけで俄然ヤル気が湧いてくる!



「瀬戸くん、最近何だか機嫌いいね」

いつも一緒に稽古してる名雲が話しかけてくる。

多分、あれからずっと螢のところに通うのが日課になったからだ。



当然…学校のない土日は螢には逢えない…


何か螢に逢う方法はないか考える…

俺は母さんのところに行って頼んだ。


「土日のアルバイト?

いいけど…ウチでいいの?」

母さんは不思議そうな顔をする。


「ほら…俺、バイト初めてだから…

最初は知ってる所がいいかなって…」

人付き合いの悪い俺が、いきなり花屋でバイトしたいと言い出したから困惑してるんだ…


「そうだね、最初は慣れてる所がいいかもね。お店には螢ちゃんもいるし、判らないことは彼女に訊けば大丈夫だから」


よしっ! やったーっ!

これで土日も螢と一緒にいられる!


俺と螢は姉弟のように育った。

でも姉弟じゃない!


俺も螢を姉さんなんて思った事はない。

小さい時から一緒にいるのが当たり前の大好きな螢…


だけど…その

どんどん俺の中で変わっていく…





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