第6話 弟
中学三年になった時、フランスから数くんが家族で日本に戻ってきた。
引っ越しの時は逢えなくて、数くんと再会したのは学校でだった。
「螢! 久しぶり!」
放課後わたしの教室に数くんが来てくれた。
二年会わないうちにわたしより小さかった数くんの背が伸びて、躰も大きくなっていてビックリした。
「ほ…ホントに数くん?騙してない?」
フランスにいる時は二つ下の数くんが弟みたいに可愛くていつも一緒だった…
日本に帰る時だって、先に帰るわたしに文句を言ってたっけ…
それなのに…
目の前には2年前の可愛い数くんはどこにもいなかった…
以前、真古ちゃんが見せてくれた数くんのお父さんによく似てきた。
見違えるくらい素敵になった…
「大好きな螢を騙す訳無いだろ!」
屈託のない笑顔をわたしに向ける数くんはあの頃と変わらない可愛い弟…と思ったら…
「螢!また逢えて嬉しい!」
そう言ってわたしに抱きついてきた!
周りから女子の驚いた声が聞こえてくる。
クラスの人たちがざわざわしてこっちを見てる…
「数くん!数くん!離して!」
わたしは慌てて彼と離れた。
「なんだよ螢…」
「こ…ここは日本だから!
フランスでは当たり前でも、
男の子が女の子に抱きつくなんて、
姉弟でもしないんだよ!」
不満そうな数くんに、わたしは“フランス”と
“姉弟”を強調してクラスの人に聞こえるように言った。
「そうか…日本は不便だな…
でも螢の顔が見れて良かった!
これから毎日逢えるのに、少しでも早く逢いたくて放課後が待ちきれなかった」
素直に言ってくれる数くんの言葉と、今でも姉のように慕ってくれるのが嬉しかった。
その後、赤毛でブサイクなわたしと、
いきなり現れたアイドル並みの数くんの関係を散々訊かれた。
わたしは自分の父親が仕事で数くんの父親と付き合いがある事。
その為、フランスでの8年間は数くんの世話を私がしていた事を説明した…
数くんは直ぐに女の子たちの噂になった。
告白した子がいるって噂も聞いた…
『数くんだって男の子だもんね…
そろそろ彼女でも作るのかな…』
なんかちょっと淋しい気がしたけど、ずっと姉弟みたいに育ってきたから呑気に考えてた。
そのうち数くんに告白する子が何人もダメになって…
わたしは数くんの邪魔をしないように学校では逢いに行かなかったのに…
当の本人はケロッとした顔でわたしのところへ逢いに来た。
それが面白くなかったんだと思う…
色んなところで嫌がらせをされるようになった。
「螢! あいつにもう来るなって言えよ!」
弟のキラくんは心配して言ってくれる。
「でも数くんが悪い訳じゃないから…」
折角、数くんがわたしに逢いに来てくれるのに…
でも、二学期に入ってから数くんはわたしのところに来なくなった…
『仕方ないよね…わたしがもう少し可愛かったら…お姉さんのままでいられたかな…』
いくら姉でも可愛い子の方がいいに決まってるもの…
わたしの髪は真っ赤だし…
顔には泥水が跳ねたような
わたしはたまに真古ちゃんから頼まれるお願い以外は数くんに逢うことは無くなった…
真古ちゃんから数くんが同じ学校に受験すると訊いた時はビックリした…
数くんならもっと自分にあった学校を受けると思ってたから…
数くん…なんで同じ学校にしたのかな?
それでも…
ずっと仲が良かった数くんが同じ学校なのは嬉しかった…
演劇部の部室でケガをした時、数くんが来てくれて涙が出そうになった。
だけど、あんまり馴れ馴れしくしたらいけないと思った。
それなのに…
わたしを保健室まで運んでくれた…
中学に入って来た時も随分変わっててビックリしたけど…
二年経って高校生になった数くんはずっとずっと素敵で…カッコよくなってて…
わたしを保健室まで抱えてくれるくらい逞しくなった…
わたしを心配してくれて、そんなところは何だか小さい時の数くんのままで安心した。
こんなわたしでもまだお姉さんでいていいかな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます