第4話 自覚
この感情は一体何時からだったんだろう…
俺と螢はずっと一緒だった…
4歳の螢が父親に連れて来られ、2歳違いの俺たちは姉弟の様に育った。
父親同士が仕事の関係で同じ家に住んでいたから、本当の姉弟みたいに仲が良かった。
6歳の時、螢の父親が男の子を連れて帰ってきた。
「今日から螢の弟になるキラだ。
二人とも仲良くしてやってくれ」
キラは中々俺たちと打ち解けず、交わろうとしなかった。
そのうち、俺と螢が一緒にいると必ず彼女に纏わり付くようになった。
「螢、お腹すいた」
「螢、眠い」
「螢、足が痛い」
紛争中の国で足に大ケガを負ったキラを螢の父親が助けた時、孤児だった彼を一人残せずそのまま連れて帰ってきたらしい…
その為手続き等に手間取り、いつまでも帰ってこないと螢が心配していたのを覚えている…
俺と螢の時間は段々少なくなり、
その分を螢はキラの世話に使った。
それでも俺と螢の仲は変らず良かった。
螢が12歳の時、彼女たちは日本に戻った。
当時中学の全単位を終えた彼女なら、日本での学力も大丈夫だと父親が判断したからだった。
その頃はまだ俺の方が小さくて、歳もキラと同じだから、螢からしたら弟にしか見えてなかったと思う。
だけど2年後、中学に入る為日本に来た時には、螢の顔は俺より下になっていた…
俺の父さんは毎朝身体づくりのトレーニングを日課にしている
[不測の事態が起きた時、家族や大切な
と云うのが父さんの考えだった。
俺もキラも、幼いながら螢を護るのは自分だと自負していた。
だから一日もトレーニングは欠かさなかったし、お互い相手には絶対負けたくないと思っていた。
父さんも足の悪いキラには、それをカバー出来るようにと、丁寧に教えていた。
キラへの競争心もあり、俺は朝だけでなく晩のトレーニングもずっと続けている。成長期で背も伸びた。
久しぶりに再会した時、思わず嬉しくて抱きしめた。
見上げていた螢の顔は俺の胸辺りにあり、鍛え上げられた俺の躰とは対照的に、華奢で折れそうな螢の躰は腕の中に収めてもまだ余るほどだった。
フランスではこの当たり前の行為も、日本ではNGだったようで…
螢はその後散々俺との関係を聞かれたらしい…
俺の瞳は父親譲りのマリンブルーで、
顔もまあ悪い方ではない。
その所為かよく女の子が寄ってくる。
螢はその様子に遠慮して近づいて来ないから、俺から螢のところへ行った。それがまさか螢を苦しめてたなんて…キラからの苦言で初めて気付かされた。
二つ上の螢は先に卒業する。
キラと一緒に下校する彼女の姿も見ることが無くなった…
俺の方は変らずよく女の子から声をかけられていた。その度に素っ気なくあしらった。
告白も何度かされた。
でも一度だって目の前の女と特別な関係になりたいと思ったことは無かった。
いつも、心の奥で何かが燻っていた…
纏わり付かれる女どもに辟易してた頃、偶然母さんの花屋で螢を見かけた。
俺の知らない男と花を買いに来ていた。
俺は躰中の血が沸騰する様な感じだった。
心臓がそれまで経験した事がないほど激しく騒いだ…
「誰だよ…あいつ…」
俺はどうにも気になって母さんにそれとなく訊いてみた。
「同じ部活の先輩だって言ってたわよ。
でも螢ちゃんだって年頃だもの…もしかしたら彼氏さんかもね」
母さんには特に深い意味もない一言だろうが、俺の方は頭から水をかけられたような衝撃だった。
「あんな鈍臭い赤毛が彼氏なんて出来るわけないだろ!」俺はつい憎まれ口をきいた。
「またそんな酷い事言って!ダメでしょ!
お母さんは螢ちゃんの茜色の髪好きよ!」
真面目に怒る母さんに、俺はバツが悪かった。
俺は螢に、彼氏なんて作って欲しくないだけだった…
「うるさいな! 判ってるよ!」
俺はありきたりの捨て台詞を吐いた。
螢は髪が夕日の様な茜色をしている。
その所為で遊んでると思われるらしく、
よく変な男の人に声をかけられると話してくれた事がある。
螢はボンクラなところがあるから変な男に引っかかったら大変だ!
俺は高校の進学先を螢と同じ学校にした。
キラの言うことなんか構うものか!
キラなんかに…
螢は任せられない!
俺の方がずっと長く螢と一緒にいたんだ!
螢の傍にいるのを
キラにどうこう言われる筋合いはない!
俺にとって螢は特別なんだ!
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