第2話 キラ

 俺のクラスは1年A組になった。

クラスなんて、どこでも良かったが、絶対一緒にはなりたくないヤツが同じクラスになった。


キラ・ノートン

螢のだ…


螢の父親は公現社と云う雑誌社の記者をしている。

父さんが個展やイベントに出展する時には、

この会社が協賛、窓口になって絵の依頼を受けたりする。

その担当者が螢の父親で、父さんが高校時代の時同じ美術部だった先輩だ…


螢は4歳の時、この先輩の養女になった。

それ依頼、外国へ出張に行った時、どうしても放おっておけない子がいると、あの父親は自分が引き取り育てている。


螢の家は、彼女と合わせて今8人の子供たちがいる。

キラは6歳の時あの家の子供になった。


最初の頃、俺と螢が一緒にいると必ず邪魔をしに来ていた。


中でも一番腹が立ったのはわざと俺の前で螢にくっつく事だった…


「ホタル…」

そう言って抱きつくキラを、螢は弟だからと優しく面倒見ていた…


俺の実の父親はフランス人と日本人のハーフで、子供の頃は俺もフランスに住んでた。

螢も父親と一緒にフランスにいたが、彼女が中学に入る時、日本に戻った。


俺も中学に上がる時フランスを離れる事になったが、日本に行くことよりも螢にまた逢えるのが楽しみだった。


ところが俺の父親と云うのが、王子様の様なメチャメチャ美形の男で(母さんからUSBの画像を見せてもらった)父親似の俺の顔は日本では可也り目立つ…


どこに行っても女の子に纏わり付かれ、そんな俺に遠慮して螢は自分から近づこうとしなくなった…


その上、このキラが相変わらず始終螢の傍にくっついている!



「螢に近づくな」

キラからそう言われたのは日本に来て半年くらいした時だった。


「お前、自分がモテるって自覚無い訳?

しかも可也りの鈍感でバカな間抜け野郎ときてる…

お前が螢に近づくと他の女がやっかんで螢に嫌がらせするの知らないだろ!」

思ってもみないことだった。


「螢は優しいからお前には言わないんだよ!

そんな事にも気付かずアイツを護れない様なヤツに、螢の傍に近づいて欲しくない!

女の友達が欲しけりゃ他所で作れよ!

ムダにいい顔持ってんだから簡単だろ!」



それ以来…螢の傍にはなるべく自分から行かなくなった…


螢が…大事だったから…


その時から、学校では誰とも話さなくなった。にこやかな笑顔の裏で、螢にそんな酷い事をしていたなんて…考えただけで腹が立ち、誰も信用出来なくなった。


それでも…やっぱり少しでも傍にいたくて高校は螢と同じ学校を受験した。

担任の先生はもっといい学校も狙えると勧めてくれたが、俺の決心は変わらなかったし、両親も“螢と同じ学校”と云うだけであっさりOKになった。


大体いい学校も何も、螢が日本に帰った後は毎日つまらなくて、勉強ばかりしていた。

その所為か、日本の中学に入る時点ではフランスで高卒迄の単位を全て取り終わっていたんだから…



ホームルームが終わって、取り敢えず今日は解散になる。


「瀬戸くん、どこの部活か决めた?」

「一緒に部活紹介見に行かない?」


俺の机の周りに女どもが集まってくる。

先生が教室を出た途端この有り様だ!


「へぇ~、色男はいいねぇ、

入学早々女の子を侍らかせて…」

嫌味ったらしい物言い…

またキラか…くそっ!


「お前っ!」

「忘れるなよ!」

俺が文句を言おうとしたらキラが強い口調で俺を睨みつけながら言った。


「お前がどんな女と付き合おうが勝手だが…約束は忘れるなよ!」


それだけ言うとあいつは他のクラスメイトと教室を出ていった。


悔しかったが、何も言い返せない。俺もうるさい女どもを振り払い帰ることにする。

外に出ると、至る所で其々の部活が新入部員の勧誘をやっていた。

俺は基より部活に入る気は無かった。


中庭から校門に向う途中、どこからか声が聞こえた。


《どうか貴方のところへ連れて行って下さい…灼けて死んでも構いません!》


この台詞…


周りを見回すと、少し離れたところで人形劇をしていた。


《いつまでも、いつまでも燃え続けました。今でも燃え続けています…》


【ヨダカの星】

螢が好きな絵本の一つだ…


劇が終わり、人形と一緒に部員が出てきて挨拶している。

「人形劇です!良かったら一緒にやりませんか?」

主人公のヨダカの人形を持っている女の子…

螢だった…


「螢、良かったよ」

「キラくん、見に来てくれたの?ありがとう!」


嬉しそうにキラに向かって微笑む螢の顔を見たら胸の奥が苦しくなった…


フランスで別れて以来、一度も俺の前であんな顔見せたこと無い…


俺は…螢の笑顔をずっと見てないことに気づいた…




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