最終話 微笑みの出発(たびだち)

 俺は2人と一緒に日本へ戻って来た。

真古都は懐かしい筈なのに、どこか初めての地に来たような、不安な顔を見せている。


彼女を自分に引き寄せて言った。

「お前は何も心配することは無い」

真古都が俺を、信頼のこもった眼差しで見つめている。


先輩と螢は祖母の家に滞在するそうだ。


俺も、先ず2人を連れて真古都の実家に行った。

母親には、あらかじめ帰国の日取りと真古都の容態を伝えてあった。


「おかえり…真古都…」

真古都の母親は涙で娘を迎えた。

彼女にとっては霧嶋と結婚して初めての里帰りになる。


「お…お母さん…」

「そうよ…貴女のお母さんよ…判る?」

涙で抱きしめながら、何年かぶりに再会した娘に声をかけている。


真古都の母親には、霧嶋の亡くなったショックが起因のひとつだと云う事にしてある。


「瀬戸くん…ありがとう」

家の中に通され、俺は真古都の母親から頭を下げられた。


「いえ…それより…お願いがあります!」

俺は緊張で声が上ずる…


「自分に真古都さんを下さい!

霧嶋の亡き後、自分が必ず真古都さんを幸せにします!」

俺は頭を床に付けて頼んだ。


彼女と結婚するために、どうしても母親の許しが欲しかった。


「で…でも…真古都は…」

母親が俺の申し出に難色を示す。

「全て承知の上です!自分には彼女しかいません!彼女を幸せにする権利を下さい!」


俺は必死で頼んだ。


「画家として将来も有望だと訊いてます。

そんな貴方が今の真古都でいいんですか?」


「自分にとってはずっと彼女だけです!

自分の不甲斐なさで…1度は手離してしまった…今度こそ、残りの時間を自分の手で幸せにしてやりたい!

どうか…結婚の許可をお願いします!」


俺は何度も頭を下げて頼み込んだ。


「ま…真古都を…娘を…よろしくお願いします…」


真古都の母親が、俺に頭を下げてくれた。



大変だったのはウチの方だった…

何年も音沙汰の無い俺を、世捨て人のように生活していると思っていたようだ。

まぁ、半分は当たってるから何も言えなかった…。


真古都との事を話し、彼女と結婚する意思を伝えた途端、親父も露月さんも凄く喜んでくれて、歳の所為なのか、抱き合って泣いていた。 

俺の性格から、もう結婚も孫も諦めていたそうだ。


柏崎と陽菜菊の結婚式には真古都と一緒に出席させてもらった。

若草色の振り袖を着た真古都は花嫁と同じ位綺麗だった。

二人共自分のことのように喜んでくれる。


「式は?」

「昨日、両方の家族で食事をした。

彼女もそれが良いと言うんで…」

柏崎が呆れた顔をする。


陽菜菊がお色直しの為に真古都を連れて会場を抜けた。

戻って来た時、真っ赤なドレスの陽菜菊と一緒に、薄いクリームイエローのドレスに身を包んだ真古都がいる。

「俺の親友がやっと長年の想い人と結ばれる事になった!一緒に祝ってくれ!」

柏崎の言葉に他の出席者たちからも祝福され、俺たちは幸せだった…



結婚して半年程が経った頃、真古都は病院を退院した。

これからは自宅療養と通院になる。


「真古都、躰には十分気をつけろよ。

あの小僧が粗末にするようだったら何時でも子どもと一緒に戻って来て良いからな」

「もう、エリックてばぁ!」


エリックは車椅子の生活にはなったが、一命はとりとめ今も病院で働いている。


「悪いが余計なお世話だ!

真古都の子どもは俺の子どもだ!

心配には及ばない!」


真古都の躰の中には新しい命が宿っている。

退院して三月みつき後、榛色の髪の男の子が元気な声を訊かせてくれた。

俺にとっては初めての出産に、オロオロするばかりで…

生まれてくる子どもの無事を願う、あの時の霧嶋の気持ちが痛いほどよく判った。


「よく頑張ったな真古都、俺を二人の父親にしてくれてありがとう」

震えている繋いだ手に、これまで以上に愛情を込める…

これからが俺たちにとって本当の意味で家族としての出発だ…


「翔くん…ありがとう…」

真古都が泣きながら俺に言ってくれる。

お前の涙を支えて行くのはこれからも俺の腕の中だけだ…


どれだけの悲しみがあっても、

涙の前よりずっと優しくお前を愛していく…


お前の微笑みが俺を照らす光になる…


言い尽くせないほどの幸せをくれるお前を、

俺は変わらぬ愛情で護って行くよ…


これからの全ての時間をお前と共に…


こんなにも

溢れるほどの愛情と幸せをありがとう…

こんなにも

愛情を注げるお前に出会えた事を

全てのものに感謝したい…


❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈

第三章 本篇 完

やっと…くっついてくれました…

5月から執筆を始め、この8ヶ月本当に皆様に支えられて書いて来ました。


毎日読みに来て下さった方

♡で応援して下さった方

☆を付けて下さった方

感想を下さった方

レビューを下さった方

小説をフォローして下さった方


皆様がいて下さったから書き上げられたと言っても過言ではありません。

とても感謝しています。

別の作品で、またお逢い出来ましたら幸せで御座います。


最終話の副題

微笑みの出発(たびだち)は、実は可也り前から最終話にはこの副題でいこうと決めていました。


副題を考えるのが苦手なわたしは、

その回の内容に合わせて、ちょっとした遊び心でつけた副題が幾つかあります。

お気づきでしょうか…

宜しければそのあたりも楽しんで戴けたら幸せで御座います。


この後、数真くんと螢ちゃんのその後を書きます。

気になる方はもう暫くお付き合い戴けたら嬉しいです。


最後になりましたが、本篇を最終話まで読んで下さり、本当にありがとうございました。

物語を創作し、読んで戴けると云う幸せを日々皆様から与えられ、励まされ心より感謝申し上げます。

皆様に幸せのお裾分けが届きますように…

      ❈❈ねこねこ❈❈






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