第226話 月の光

 俺は、面会時間ギリギリまで真古都を腕の中に囲って離さなかった。


とにかく、俺はすぐにでも真古都と結婚したいと思った。

もう二度と、離れ離れにならない為に…

他の男に奪われない為に…

法的に自分の籠へ閉じ込めたかった…


「真古都…来週、日本へ一度戻ろう」

彼女と結婚するためには、どうしても日本でしなければいけない事があった。


「俺に…付いてきてくれるだろ?」

彼女の頬を撫でながら訊いた。


「翔くんとなら…どこにでも一緒に行きます…」

真古都が、伏し目がちに含羞はにかんで答えてくれる。


くそっ! 

なんて可愛いことを言ってくれるんだ!

俺は真古都の言葉に涙が出るくらい嬉しかった。


「よし、先ずは病院に婚約したことと、日本に行く外出許可を取らないとな」

「はい…」

真古都の躰を抱き締める感触に幸せを噛み締めていた。



真古都と一緒に本館の受付に行った。


〘おやおや…その様子だといい返事がもらえたようね〙

先程のナースが笑顔で祝福をしてくれる。


〘おめでとう…マコト 幸せにね〙

〘はいっ〙

真古都は抱き締められて嬉しそうだ。


〘それで、式はいつなの?〙

ナースが俺の方を見て訊いた。


〘来週、日本に戻った時!

一日でも早くコイツを俺のもとに閉じ込めたい!〙


それを訊いた途端、呆れた顔で俺を見た。

〘マコト…貴方のご主人になる人は随分独占欲の強い人らしいわね…〙


俺は少しバツが悪かったが、構うものか!

実際、その通りなんだから…



家に帰ると、一番喜んでくれたのは螢だった。

「翔吾くんのお嫁さんは絶対真古ちゃんじゃなきゃダメだよ!」


螢のその言葉に、

「俺もそう思う」と、答えた。


その日見上げた月は、眩く輝いて目を見張るほど綺麗だった。

やっと…やっと俺だけを照らしてくれる

“月”が戻って来た…




日本へ向かう前日、俺は病院へ真古都と数真を迎えに行った。


「あっ…翔吾くん!」

俺を見つけた数真が走って近づいて来る。


「どこ行ってたの?真古しゃんずっと泣いてたの…

だからエリくんに頼んだの…」

数真は俺の足に絡みつき、

逢わなかった間の事を必死で説明している。


「ごめんな…でも、もうどこにも行かないから心配するな」

俺はしゃがんでから、数真の頭を鷲掴みにして撫でた。


ソファーの方に目を向けると、真古都が俺を見ている。

俺は彼女に近づいて、1m程手前で止まった。


「どうした?お前は来てくれないのか?」

躊躇している彼女に声をかけた。


「行って…いいの?」

「嫁さんになるヤツが何言ってるんだ…当たり前だろ?」


「翔くん!」

遠慮がちにモゾモゾしていた彼女が俺の一言を訊くと、これまでに無いくらいに嬉しそうな顔をして、俺の胸に飛び込んで来た。


「来てくれるって思っててもちょっと心配だったの…わたしは…あの人みたいに美人じゃないし…綺麗に飾れないし…それに…」

「真古都…」

俺は彼女の言葉を静かに制した。


「俺は、お前が良いんだ。

そのまんまのお前が好きなんだ…

周りの女の事なんか心配するな!」

真古都は恥ずかしそうに笑顔を見せてくれた。


そうだ…

お前のその笑顔が俺は一番良いんだ!



教会に着くと、久しぶりの再会を数真と螢が喜んでいた。


「真古都、おかえり…」

「先輩!」


声をかけた先輩に、真古都は嬉しそうに走って近づいて行った。


「先輩…帰って来ちゃいました…」

「帰って来てくれて嬉しいよ」

近くに寄った彼女の頭を、先輩は両手で挟むように掴んで撫でている。


俺は慌てて側に行くと、真古都を自分の方に引き寄せた。


「先輩! 近すぎです!」


先輩は一瞬驚いたが、その後はメチャクチャ笑われた。


「お前のそう云うところ…

高校の時と少しも変わらないな…」


「先輩が真古都に気安く触るからじゃないですか!」


真面目に換気する俺を先輩は益々腹を抱えて笑い出した。


「真古都、今から覚悟しといた方がいいぞ…お前の旦那になるヤツは相当独占欲が強いからな…」


「はい…病院でも同じ事を言われました」


俺は恥ずかしくて顔が熱くなった。

そんな時、俺の携帯が鳴る…



携帯の画面には爺さんの番号だ…


〘はい…〙


電話に出ると、やっと連絡が取れた事を皮肉混じりに言われ、来週のレセプションパーティーの話をされた。

真古都を見ると不安そうに俺を見ている。

そんな彼女の顔に触れると、安心させる為にそっと撫でた。


〘爺さん、俺は前から言ってる。

俺はどこの傘下にも入らない…

誰にも束縛されずに自分の絵を描きたい。

それに…俺は随分周りでは気難しくて扱いにくい男だと評判でね…今の担当だから務まってるんだ。

爺さんの孫に俺の担当は到底無理だな。パーティーも不参加だ〙


電話の向こうで、パーティーにだけは出席しろとまだ言っている。


〘悪いな、来週はなんだ〙

俺は電話を切った。


「日本に戻ったら忙しいぞ」

真古都は俺の胸に顔を埋めて何度も頷いてくれた。


俺を照らす“月”は本当に可愛くて仕方ない…












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