第224話 明日輝く

 「レセプションか…」

爺さんが、関係者を集めたレセプションパーティーを開催する。


多分…その時婚約の話しも出されるだろう…


ここひと月…部屋に閉じ籠もって病院にも行かなくなった…

瀬戸はどうするつもりなんだ?




「お父さん…翔吾くん結婚するの?」

螢が納得のいかない顔で父親に訊いた。


「さあな…」

その煮え切らない回答に、益々面白くない顔を見せる。



「瀬戸…いつまでもここにいることを爺さんに隠しておけないぞ…

一度教会へ帰るからな…」

毎日、死んだ魚の様に過ごす瀬戸に言った。


「自分の足下も固められないヤツがいつまでフラフラしてても仕方ないだろ?」

自分の後輩でなければ…

嫌…そうじゃない…

アイツが好きになった男がこの男でなければ…とっくに見捨てている…


「あれだけの美人でしかも金持ちと結婚出来るのに何が不満なんだ?贅沢すぎだろ?」

つい皮肉も言ってやった… 




「ねえ、お父さん…螢がお嫁さんに行ったら寂しい?」

螢がいきなり父親に訊いた。


「うん、寂しいな…」

どこにでもある父と子の、普通の会話…


「螢は…お父さんみたいなひとと結婚するんだ」

「そりゃ…嬉しいな…

でも、なんでお父さんなんだ?

理想が随分低すぎないか?

第一、お父さんみたいなヤツはそういないぞ…」

嬉しい反面、やはり理想が自分では些か心配だったりする…


「だって、お父さんは螢を一番大事にしてくれるもん…大人になるまでずっと大事にしてくれるもん…」



何でもない事のように螢は言ったが、先輩と螢は血が繋がってない…

母親から捨てられた螢が、先輩に対しては大人になるまで自分を育ててくれると信じている…


俺は螢の言葉を訊いて、何かが自分のなかで変わった気がした…



「先輩…先輩は螢を引き取る時悩んだりしなかったんですか?

その…将来…自分の結婚の枷になるかもしれないとか…」

俺は思い切って訊いてみた。


「お前は間抜けな男だと思っていたが、時々本当に変な事を訊くな…」

先輩が不思議な顔で俺を見る…


「俺は後悔などしない。

後悔などするくらいなら初めからしなければいいことだ…

螢は引き取ると决めた時点で俺の大事な娘になった。枷になる訳が無い。

もし、この先結婚することがあったとしたら、俺を好きになった女が螢も大事にしてくれるんじゃない…

螢を大事にしてくれる女を俺が好きになるんだ…」



相変わらず…先輩には敵わない…

こんな先輩だから…

大人になるまで大事にしてもらえると、

螢は信じて疑わない…


こんな…簡単な事に… 


どうしておれはいつも気付かないんだ…


「先輩…すみません!」

俺は立ち上がって先輩に謝った…


「俺…まだ帰れません…

明日…出かけてきます…」


「やっと動く気になったか…行ってこい」

全く仕方のないヤツだ…




次の日…

よく晴れて良い天気だった…


俺は髪をしっかり縛り、服も替えた…


「しっかりな…」

先輩が応援してくれた…


「翔吾くん…プロポーズの言葉ちゃんと知ってる?螢の絵本、貸してあげようか?」

螢が不安そうに自分の絵本を抱えている。


「大丈夫だ!

今度こそ、一字一句間違えずに伝える!」


俺は二人にそう言って病院へ向かった。

途中、何軒かの花屋にも寄った…



病院に着いて、いつもの受付まで歩く俺を、何事かと周りにいる人がビックリして振り返って見る…


「すみません!マコト・キリシマに面会をお願いします!」

俺は受付のナースに声をかけた。


「何度言わせるの!面会は予約を取ってから…」

そこまで言いかけて俺をマジマジと見た…


「すみません!

どうしても直ぐ伝えたくて…」


「マコトなら自分の宿舎にいますよ…

貴方のその格好に免じて今日は特別ですからね…自分のすべき事を果たしてらっしゃい…いい返事が貰えることを祈ってるわ」

両手の塞がっている俺の胸に面会カードを入れながらナースが言ってくれた…


「ありがとうございます!」


俺はお礼を言うと、一目散に真古都の宿舎へ向かった…

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