第220話 愛しい人へ

 真古都の状態が安定しないため、まだ面会の許可がおりない…


先輩が近くに部屋を借りてくれたので、俺は毎日そこから病院へ通った。


以前の病院と違って、ここは自由に過ごせるようだ。

真古都も、敷地内の宿舎から病棟にカウンセリングを受けに行くらしい…


真古都は数真が遊んでる様子を見ながら本を読んで過ごすことが多い。

俺はこの屋上からそれを眺めている。


それでも…

毎日彼女の顔が見れるだけで幸せだった…


今は無理でも、許可がおりれば面会も出来る…

その時…彼女は俺に逢ってくれるだろうか…


彼女からすれば、俺は自分を裏切った男だと思ってるはずだ…

誓いの指輪を渡していながら、堂々と他所では別の女に愛を囁き、見てくれの良い女との結婚を決めた男だと…


俺は…ずっとお前しか見ていないのに…

お前をここまで追い込んだのは、

結局は見目の良い女を選ぶ様な、恥知らずな男だと思わせてしまった俺の所為だ…


俺は…これからの一生をかけて、

お前を幸せにしたい…

霧嶋に誓って

お前を誰よりも大事にするよ…



真古都は、午前中病棟での診察やカウンセリングをうけ、午後2時ぐらいから、4時頃まで外のテーブルで本を読んだり、パソコンを見たりしている…


こんなにも近い距離にいるのに…

お前に触れるどころか、

声も聴けないなんて…


「真古都…」

あまりにも愛しくて、つい彼女の名前が口から出てきた…


「まるでストーカーの様だな」

聞き慣れたその日本語と声に後ろを振り向いた!


「先輩!」


1か月は面会が出来ないことを知って、先輩は一度、螢の様子を見に帰っていた。


「なんだ、またあの男が一緒にいるのか…」

真古都が、あの男と過ごしている様子を見て悔しそうに吐き捨てている。


「入院したばかりで、勝手の判らない二人の面倒を見ているとナースは言ってた…」

俺は、あの男と真古都の事が気になって、尋ねたナースから訊いたことを先輩に伝えた。


「あんな男…信用出来るものか!」



「ねぇ、真古ちゃんどこにいるの?」

今回は先輩と一緒に来た螢が不意に訊いてきた。


「ああ…螢、あそこ…判るか?

でも、病院の規則でこっちからは声をかけちゃダメだから…見てるだけだぞ」

俺は真古都のいる方角を指差して教えた。


「あっ、真古ちゃんだ!」

螢が真古都をみつけて嬉しそうな声を出した。




自分の名前が呼ばれた気がした…

女の子が日本語で…螢ちゃん?


恐る恐る声のする方を見る…

「うそ…」


倒れそうになったわたしを近くにいたエリックが受け止めて支えてくれた…


〘大丈夫か?〙

頭がグルグルする…

まさかとは思いながら視線を移していたら、今一番会いたくない人の姿が目に入ってきた。


〘なんで…あの人がいるの…?〙

わたしは幾筋ものしずくをおとしながらエリックにしがみついた。


〘ごめん…もう、家に入る…〙

わたしは何とか歩こうと頑張るけど、足に力が入らない…


〘仕方ない…ちょっと我慢しろ…〙

エリックはわたしを抱きかかえると、宿舎まで連れて行ってくれた。


辛かった…

他のひとを好きになっても仕方ない…

男の人なんてそんなものだから…


でも…

わたしの知らない所で

幸せにやってくれればいいのに…


わたしは旦那様と共に生きていこうと決めたから放っておいて欲しかった…


何もかも完璧なひとと結婚するあの人に…

何も持っていないだけでなく、記憶が不安定でこんな病院に入院してるわたしを見られるのは惨めだった…


〘酷い…酷いよ…くん…〙




真古都が倒れた?

大丈夫なんだろうか…


あの男が真古都を抱き上げて運んでいく…

それは…いつだって俺の役目だったのに…

こんなところで何も出来ない自分が悔しくて仕方ない…


今すぐ駆けつけてやりたい…

今回の誤解を判ってもらって…

もう一度、

お前を幸せにする権利が欲しい…


お前のことが…

お前のことだけが…

愛しくて堪らない…












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