第216話 明日に架ける橋
「それでお前は肯定も否定もしなかったのか?!」
先輩の叱責が飛ぶ中、俺たちは霧嶋の家に向かっていた。
「お引き取り下さい!今更何の用です?」
激怒している母親を宥め、どうにか話を訊いてもらえるよう先輩が交渉してくれ、何とか家の中へ入れてもらえた。
「もうこれ以上、ウチの真古都を振り回すのは止めて下さい」
厳しい一言だった。
「今回バレなければそのお嬢さんと結婚して、真古都を都合の良い愛人に囲うつもりだったのでしょう?」
「違う!」
皮肉の籠もった母親の言葉に俺は怒りに任せて立ち上がったが、先輩がそれを制してまた座らされた。
「夫人のお怒りはご尤もです…ですが…
誓って瀬戸はそんな男じゃありません!
こいつが真古都を…いや、真古都さんをどれほど想っていたか、学生時代から見ている俺はよく知っています」
先輩が…自分の感情を抑えながら母親と話をしてくれている…
「男同士の庇い合い程当てにならないものはありませんよ。瀬戸くんが以前どんな関係だったとしても、今はもう、真古都はウチの嫁です。わたしには娘を護る義務が有ります」
先輩の言葉も冷たく言い返された。
「もう一度こいつにチャンスをやってくれませんか?息子さんにとって彼女が全てだったように、こいつにとっても彼女は人生の全てなんです!」
先輩が…頭を下げ俺のために頼んでいる…
「真古都を想うなら…放っておいてくれませんか? 瀬戸くんも、折角素敵なお嬢さんとの縁談が決まったんじゃないですか。
それで十分でしょう…
真古都は…やっと静かな日常を過ごしているんです」
真古都は母親が転院を勧めると快く応じたそうだ…
「お義母さん、お願いがあるの」
そう言ってあの封筒を母親に渡した。
「やっぱり…結婚するなら何でも持ってる人が良いんだね…
美人で可愛らしくて…いつも綺麗で…
頭も良さそう…お仕事のお手伝いも出来るし…わたしに無いものばかり持ってる…」
真古都は偶然見た番組で結婚の話を知ったと、教えてくれた。
「旦那様と結婚する前なら…瀬戸くんが望めば傍に置いて貰うだけで幸せだと、受け入れたと思う…
だけど…旦那様はわたしだけを愛してくれた…こんな何も持っていないわたしをずっと好きだと言ってくれた…
わたしは…わたしだけを視てくれる
「お願い…あの子をもう翻弄しないで…
今は穏やかに暮らしてるのよ…」
母親の言葉が痛切に響いた。
「そこを何とかお願いします!
息子さんが彼女をどれほど大切にしていたか解っています。
でも、息子さんはもういません。
過去の思い出だけで生きて行かせてそれが真古都さんの幸せなんでしょうか!
あとたった一度でいいんです!
彼に…瀬戸に…真古都さんを幸せにする機会を与えてやって下さい!
彼女の居場所を教えて下さい!
お願いします!」
先輩は母親に、何度も何度も頭を下げていた。
「先輩…すみません…」
俺は帰りの車の中で謝った。
「うるさい!
お前がどうしようもない間抜けな男なのはよく知っている!
帰ったら直ぐ旅支度だからな!」
家に着くと、柏崎と陽菜菊に訳を話した。
「それですまん…螢のことなんだが…」
先輩が螢を頼もうと話しかけた…
「わたしも行く!」
螢が言った。
「螢…いい子だから…」
「嫌!」
螢が珍しく大きな声をあげる。
「螢…悪い子でもいい…
お父さんと一緒がいい…」
父親にしがみつき必死で頼み始めた。
「翔吾くんがちゃんとしないから悪いんじゃん!
真古ちゃんの手を握ってないから悪いんじゃん!」
俺は返す言葉がない…
こんな小さな螢にまで心配させて…
「螢…ごめん…
もう少しだけお父さん貸してくれ…
その代わり、絶対真古都を連れて帰って来るから…」
螢の同じ目線まで腰を落とし、真っ直ぐ見て頼んだ。
「絶対? 約束する?」
「おう!」
俺は螢と指切りする…
真古都待っていてくれ
これからは
俺が霧嶋以上にお前を幸せにする!
どんな事からもお前を護る!
俺はお前を幸せへと渡らせる橋になる…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます