第214話 サヨナラの前に 後篇

『真古都…ごめん…』

俺はバカだ!

こんなにも…彼女を想っているのに…

いつもいつも…

俺に決断力が無いばかりに

後手後手にまわる…


彼女に逢いたくて…声が聴きたくて…

気持ちばかりが焦る…


早く真古都の顔が見たい!

お前が好きなんだ…

霧嶋が好きだと言われても構うものか

今度は俺がお前を攫ってやる!



彼女の家に着くと様子が可怪しい。

ドアは開けっ放しだ…

嫌な予感が俺を襲う…


家に入り、声をかけようとした時…


「嫌ァーッ!」

真古都の悲鳴が空気を切り裂く…!


「真古都!!」

俺は声のする方へ一目散に走った!


部屋の中へ入ると、物が散乱し、床には血痕がついている…


一体何があったんだ?!


乱れた服で、震えながら真古都は血塗れのネックレスを握っている。

他には誰もいない…

逃げられたかっ!


「真古都!」

放心状態の真古都に声をかける…


「嫌ッ…来ないで…来ないで…」

真古都が俺を見て後退りしてゆく…

俺だと…解らないのか…?


俺は病院の手配をすると、真古都へとゆっくり近づいていく…


「やだっ…やだっ…やだっ…やだっ…」


ダメだ…本当に俺が解らない…


「真古都…大丈夫だ…大丈夫…」

俺は少しづつ彼女に近づいていく…


「やだっ…来ないで…来ないで…」

「真古都! 俺だ、翔吾だ!」

手が届く距離まで近づくと、力一杯抱き締めた。


「大丈夫だ…真古都…」

「嫌ァーッ!」


真古都が暴れた時、彼女の持っていたネックレスが俺の左頬を切った…

流れる赤い筋に益々彼女はパニックになっていった…


俺は彼女からゆっくりネックレスを抜き取り抱き締める…


「あの男が…わたしを……やだっ…」

真古都の躰がガタガタと震えている…


あの男がまさか彼女の家にまで来るなんて盲点だった…


俺がつまらない嫉妬心に駆られて、お前を迎えに来るのが遅くなったから…

お前にこんな怖い思いをさせた…


「やだっ…やだっ…助けて…旦那様…」

泣きながら霧嶋を呼ぶ真古都を抱き締める…


すまない…真古都…

今更嫉妬したところでどうしようもない…

何かをしたくても、もう霧嶋はいない…


お前の中にある霧嶋のイメージを払拭することなんて出来はしないのに…


今のお前を丸ごと受け入れると言っておきながら…

俺はつまらない事ばかり拘って…

お前を少しも視てはいなかった…


もっとお前の言葉に耳を傾け…

お前の流す涙の理由いみを解ってやればこんな事にならなかった…


俺は何度リセットすれば、

お前が安心して全てを委ねられる男になれるんだろう…


「やだっ…やだっ…やだっ…

旦那様ァーッ! 旦那様ァーッ!」


「真古都…辛かったな…

ごめん…結婚してる相手が亡くなれば…

誰だって辛い筈なのに…

そんなお前を顧みてやれる余裕が、

狭量な俺にはなかった…

こんな…情けない男ですまない…」


恐怖でパニックになってる真古都は霧嶋の名前を呼び続けている…


「もう霧嶋あいつはいない…

お前がどんなに想ってもいないんだ…

真古都…そろそろ…サヨナラしよう…」








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