第211話 自己嫌悪

 真古都の泣き声だけが部屋の中に響いている…


「わたし…旦那様になんてことを…

どうして…

もっと好きだって言わなかったんだろう…ううっ…旦那様…旦那様…」


真古都が霧嶋を想って涙を流している…

何とかしてやりたいのに…

霧嶋を想う真古都に俺は何が出来るんだ…


何とかしてやりたい自分と…

嫉妬に駆られた自分…


ただ好きだと云うだけで

俺から真古都を奪った

自分勝手な男だと思ってた…


でも…真古都を想う気持ちだけは

本当だったんだ…

霧嶋が…あれほど真古都のことを

深く愛していたなんて…


あんな…あんな…

愛情に溢れた遺書を見せつけられて…

俺に…あれ以上のことが出来るのか?

男として…

霧嶋より真古都を幸せにしてやれるのか?


あんなに…霧嶋を想って涙を流す彼女を、

丸ごと俺は受け止めてやれるのか?


目の前で悲しみに暮れる彼女に、

嫉妬心ばかりが先立ち、

為す術も無く棒立ちしている自分に腹が立って仕方がない…




「大丈夫か真古都…」

先輩が、涙の止まらない真古都の肩に手を置き、軽く叩きながら落ち着かせている…


真古都は先輩が渡したハンカチで顔を拭いながらコクコクと頷いている。


「真古都…

してやりたかった事や、

伝えたかった事…後悔もあるだろう…

たが、俺が見る限りお前の気持ちは、

十分あの男に伝わっている…」


先輩は真古都の頭を撫で、まるで子どもをあやすように話しかけている。


「先輩ありがとうございます。

旦那様とは色々あったかもしれないけど…それでもわたしは旦那様が好きです…」


含羞はにかんで笑う真古都の頭を先輩は優しく撫でている。

それに比べて…俺以外の男を好きだと言ってる彼女の顔を直に見ることが出来ない自分の偏狭さが情けない…



真古都は霧嶋が遺した箱も見せてくれた。

蓋を開けると、確かに中に大きな包みが布で包まって入っている。

サイズ的に12号くらい…

だ…


「わたしにはよく判らない物もあって…」

真古都は先輩に困惑した表情を向けながら訊いている。


「俺が見ても構わないかな?」

その問いにも、やはり頷いて答えている。


箱の中には、絵の他に書類サイズの封筒が数枚はいっていて、中身はどれも申請書類の控えだった。


「凄いな…あの歳でこれだけの資産を持ってるなんて…」

先輩は感心しながら書類を一枚一枚確認していく… 


書類の他には手のひらサイズの箱が1つとそれよりも大きい箱が1つ。


小さい箱にはメモが貼ってある。


“僕がはめてあげたかったけどごめんね

今年のクリスマスプレゼントだよ”


中には透かし柄の指輪…

銀色の上下の縁取りの間に、

絡まる蔦と薔薇の花の模様。


「素敵…」

指輪を見た途端に真古都からでた一言…


元々、真古都は宝飾品にはあまり興味を示さない。

多分デザインが気に入ったんだろう…


…俺があげた指輪も…あんな顔がして欲しかった…


もう1つ、高さ10cm程度のA4サイズの箱。

開けると便箋が1枚置かれていて、何枚あるのか判らない程たくさんのUSBがぎっしりと入っている。


“これは君と過ごした間の僕の宝物です”












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