第210話 遥か彼方からの手紙

 《真古都さん…》

モニターの中に映る霧嶋が真古都に話しかける…


《これを視てる真古都さんは僕がいなくなってどのくらい経つのかな…

ひと月? ふた月?

それでも…君がこれを見つけてくれて

僕が君に謝罪する機会を与えられたなら嬉しいな…》


霧嶋は優しい顔で真古都に微笑む…


《君には謝らなきゃいけない事ばかりだ…

君が欲しくて酷いことをした…

君が離れて行かないように嘘をついた…》


こんなに深い愛情の籠もった眼差しを俺は見たことがない…


《僕は自分勝手な想いを君に寄せて…

その所為で取り返しのつかない事を君にしてしまった…

その為に君を傷つけて…

深い悲しみを背負わせて…

恨まれても仕方ない事をたくさん君にして来た…》


「だ…旦那様…旦那様…」

真古都の溢れるしずくが止めどなく流れ落ちていく…


《君の意思を無視して…

君を抱いてしまって…ごめんね…

僕は自分の想いを遂げる事しか考えていなかった…

どれだけ僕が想いを寄せても

君に届くことは無かった…

それでも…僕は…

君が欲しかった…》


辛そうな顔で霧嶋が自分の罪を自白していく…


《こんなに酷いことをしたのに…

君は優しかった…

僕の側にいると約束してくれて…

プロポーズも受けてくれた…》


モニターの霧嶋を見つめる真古都の瞳が見ていて辛かった…


《君との結婚生活は幸せだった…

いつも君がいてくれて…

声が聴けて…

望めばいつでも君の笑顔がそこにあって…


だけど…幸せであればあるだけ、

いつか突然…こんな僕を捨てて…

どこかへ行ってしまわないか

怖くて仕方なかった…


数真が生まれてきて嬉しかった…

僕と云う人間がここにいた事を唯一証明してくれる存在だから…

僕と、君の血を半分づつ持つ数真が愛しかった…

それに、何より数真を置いて君は何処へも行かないから…


愛しい我が子でさえ…君を繋ぎ止めて置くために使うなんて…

僕は打算的で姑息な男だろう…?》


「そんなこと…そんなこと…ない…」

真古都が霧嶋の罪を否定していく…

あんなに酷いことをされたのに…

そんな目で霧嶋を見つめないで欲しい…


《僕は君に嘘もたくさんついた…

箱の中に大きな包みがあったでしょう?

物置小屋の火事で僕はを燃やしてしまいたかった…

でも…出来なかった…


僕は我が儘で…嫉妬ヤキモチやきで…

僕がいなくなった後は誰とも結婚して欲しくなかった…


だけど…それ以上に…

僕がいなくなった後の君が、

心配でならない


君は一人だと危なっかしくて…

誰かが傍で支えてないと

蒲公英の綿毛のように

どこかへ飛ばされてしまうから…


僕が…きっと…

この世で君を託せるのは…

悔しいけど一人しかいない…


の作者が…

必ずこれからの君を支えてくれるよ…》


「嫌です! 嫌です! 旦那様ぁ…

そんな事言わないで…

ごめんなさい…ごめんなさい…

わたしには…旦那様だけです…」


真古都が泣きながら叫んでいる…

これ程真古都から想われている霧嶋が憎らしかった…


霧嶋はこれから先のことも伝えていた…


《真古都さん…少ないけど…

君がこれから生きていくために資産を残してある…

ちゃんと僕が稼いだお金だから安心して数真と二人で使ってね…


国籍のことも嘘ついてごめん…

国籍がフランスなら日本に帰るのは諦めて僕の傍にいてくれると思ったんだ…

フランスの国籍は…5年以上の滞在期間があれば申請出来るから…》


「国籍…申請します…

わたし…旦那様と同じ国籍になりますから…旦那様…」


《大好きな真古都さん…

大好き…大好き…大好き…大好き…大好き…

どれだけ言ってもまだ足りない…

君は…僕の全てだった…

君が傍にいてくれたから…

僕は余命宣告以上に生きていられたんだ》


「旦那様ぁ…もっと…お傍にいたかった」   


《こんなことなら…もっとお強請りして、君からも好きだって言って貰えばよかったな…》


「旦那様…ごめんなさい…」


「お強請りして…拒絶されるのが怖かったんだ…案外…意気地が無いよね…」


苦笑する霧嶋の気持ちが判るだけに俺は切なかった…


《君の傍にはいられないけど…僕はずっと君の幸せを祈ってるよ…

大好きな真古都さん…数真を頼むね…

誰よりも愛しているよ…

真古都さん…良かったら他のUSBも見てくれると嬉しいな…》


「だ…旦那様…待って! 待って!」


そこで画面が一旦切れて切り替わる…


《真古都さん…ありがとう…

今日…君の口から初めて好きだって聴いて嬉しかった…

君の口から直に聴くのが…

こんなに嬉しいなら…

やっぱりもっとお強請りすれば良かった…

真古都さん…ありがとう

こんな僕を好きだと言ってくれて…

僕は本当に幸せ…》


霧嶋が喉を詰まらせている…

「旦那様ぁ…旦那様ぁ…」

真古都は画面に向かって霧嶋の名前を呼び続けてる…


《もっと…もっと…

君の傍にいたかった…

ずっと君を愛してあげたかった…

真古都さん…最後まで一緒にいてくれて…

ありがとう…

大好きだよ…真古都さん…》


霧嶋の泣き顔で画面が閉じた…


「ああぁーー! 旦那様ぁー!

もっと好きだって言えば良かった…

もっと旦那様が大切だって…

傍にいたいって…

いっぱい伝えれば良かった!」


霧嶋を想って泣く真古都を前に、俺はいたたまれなかった…





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