第205話 太陽と月

 「真古都…おはよう…」


俺の胸で目覚めた彼女に声をかけた。

その言葉に俺の顔を見た途端、 忽ち真っ赤に染まっていく…


愛しさが胸の中を占めて行く…

やっと俺のもとに戻ってきた…

俺の大切な真古都…

二度と離さない…


「もう…何処へも行くなよ…」


何気なく言ったこの言葉に、真古都は不思議そうな顔を見せた。


「いいんだ…ずっと俺の傍にいてくれたら…それだけでいい…」


何か言いたそうな彼女の口を、自分の唇で塞いでゆっくりと舌を絡めていった…


自分の下に戻ってきた実感が欲しくて、昨夜から何度も彼女のなかへ俺のしるしのこしていた。

真古都はその度に、俺に身を任せてくれた…


好きな女が自分の傍にいてくれて、

繋がっていられる事が、これ程までに幸せで満たされるものだと改めて思い知った。




会場に向かう車の中で、真古都は指輪を外そうとしているので俺は止めた。


「でも瀬戸くん…わたしが薬指にしてたら…また何か書かれるかも…」

真古都が泣きそうな顔で訴える。


「大丈夫だ、俺は構わない」

「でも…」


「真古都、コイツが大丈夫だって言うんだ堂々と付けてたらいい…」

「そうそう、何かあってもコイツなら必ず真古ちゃんを護るからさ」

「そうです!コトちゃんは誰が何て言っても瀬戸くんのなんですから!」


不安になってる真古都へ皆んなが声をかけてくれる。


「ほら、つけろ…」

「はい…」

再びわたしの指に瀬戸くんがはめてくれた…


「ホントに言葉数の足らないヤツだな…

“つけてる君が見たい” とか、

“つけていて欲しいんだ” とか、

何故言えないかな…」

柏崎が呆れたように言う…


「っるせ!くだらない事言ってないでちゃんと前向いて運転しろ!」

全く…柏崎のヤツめ…

そんな言葉がスラスラ言えるようなら誰も苦労してないだろ!

俺は皆んなの言葉が嬉しかったのと同時に、メチャクチャ照れ臭かった…



瀬戸くんが指輪をくれた…

旦那様がくれたのは結婚指輪だから、

こんなふうに石が付いてるのをはめるのは初めて…


そんなに派手なデザインじゃないし…

小さい石だし…

着物の袖で隠れて案外判らないかも…




ところが…

今日の来場者から信じられない事実を知らされ、わたしは自分の無知さ加減に落ち込んだ…


〘オー!イエローダイヤですね!

色も素晴らしい!これ程のダイヤを婚約者に贈られるとは…月の女神に相応しい指輪だ!〙


いや…

わたし…

瀬戸くんから貰ったなんて言ってないし…

それに…イエローダイヤって…何?!


わたしは宝石には普段から興味なんて湧いたこともなかったので、黄色い石だし…

ダイヤだなんて微塵も思わなかった…


『高いモノだったらどうしよう…』

わたしは少し不安になった…





「あ…あの…今日、来場してくれた人が…あの…指輪を褒めてくれて…凄く良い物だって…た…高かったでしょう?

ごめんなさい…」

昼間、来場者の人から言われたことを夕食の時話した…


「120万だが、お前が謝る必要はない。

俺が勝手に使った金だ…」

サラリと言った120万と云う金額にもビックリしたが、何よりも一同が感じたのは、“真古都”が絡むとこの男は平気でとんでもない事をしでかすと云うことだった…


「ごめんなさい…わたし…黄色いダイヤがあるなんて知らなくて…」

彼女の方は思ってもみなかった金額に只々恐縮している…



わたしは折角くれた瀬戸くんに申し訳ないやら…恥ずかしいやら…顔があげられなかった…


「お前が宝石に興味が無いのは知っている…大丈夫だ」

瀬戸くんはまるで気にする様子もなく食事している…


「そうですよ!コトちゃんが気に入ったならそれが1番ですよ!」

キクちゃんもそう言ってくれる…


「しかし…プロポーズになんで黄色いダイヤにしたんだ?」

黄色いダイヤが不思議だったのか先輩が瀬戸くんに訊いてる…


「そう云えばそうだな…

俺もヒナに渡したのは普通のダイヤだったし…」

柏崎くんがそう言いながらキクちゃんを見ると、目があったキクちゃんは少し赤くなって柏崎くんに笑顔を向けている…


皆んなからの視線が集まり、瀬戸くんは食事の箸が止まってしまった…


「いや…その…俺も店員には普通のダイヤを勧められたんだが…」

瀬戸くんが観念したように話しだした…


「真古都には…黄色い石を贈りたかった…俺には…その…大事な…“月”…だから…」

瀬戸くんがそっぽを向いて黄色の理由を教えてくれる…


「最初のは…色がもっと薄くて…

イメージに近い色を選んだら…

そのグレード値段になった…」

話しながら瀬戸くんの顔がどんどん赤く染まっていく…


「全く、お前らしいな…」

「っるせって!」

肩を叩く柏崎に瀬戸くんが照れてる…


「太陽の贈った愛の告白ひかりが月に届いたって訳だ…」


先輩の言葉に、わたしは益々顔があげられなくなった…












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る