第201話 君と歩く未来〔あした〕

 「な…なんで…わたしここで寝てるの?」

目が覚めて、真古都の第一声だ…


「昨夜、星を見ながら寝ちゃっただろ?」


「やだっ…わたしったら…ごめんなさい」

真古都は俺の胸に顔を埋めて謝っている。


「彼女とベッドで過ごすのが嫌な彼氏なんていないだろ…」

胸に囲っている彼女の肩を抱いて、より一層自分に引き寄せた。


「で…でも…わたしたち…だから…」

真古都が伏し目がちに答えた…


焦ったらダメだと判ってはいたが、霧嶋が亡くなってもうすぐ1年になる…

折角のこの状況に、俺は彼女との距離を少しでも近づけたかった。


「それならで付き合うのは止めよう…」

俺は真古都に顔を近づけて言った。

彼女の方は、驚きや戸惑い、切なさが入り混じった目を俺に向けてる…


「正直に答えてくれ…お前は俺が嫌いか?」

俺の質問に、胸に埋めた顔を赤く染め首を横に振ってくれた。


俺の心臓は今にも爆発寸前だった…


「なら、安心して俺についてこい…いいな?」

念を押すように彼女の耳元で伝える。


真古都は赤く染まった顔でコクコクと頷いている。


よしっ!


また一歩前進だ!



その日から俺は真古都の傍を片時も離れなかった。

あの男の存在も気になったが、それ以上に彼女の傍を離れたくなかった…


もう…

〔幸せ〕なんて生易しいもんじゃない…


頭に月が落ちても…

太陽が降ってきても…

流れ星に当たっても…


俺はきっと気付かない程

毎日気持ちが高揚していた…



気持ちが充実して居るからなのか、絵の方も順調に進んでいた。


花屋の仕事の合間に絵を描くこともある。

子どもが花の絵を強請ると、その時はポストカードサイズの紙に描いてやったりした。



「真古ちゃん…頼みがあるんだが…」

夕食の時、先輩がわたしに訊いてきた。


「わたしに出来る事なら…」

先輩にも、瀬戸くんにも、たくさんお世話になってる…

わたしに出来る事ならお返ししたい…


「今回開催するコイツの出展に関してのお願いなんだが…」

瀬戸くんの絵画展の事だ…


「今までは会場に俺とコイツで自分たちの持ち場にいたんだが…

今回は色々忙しくて、ずっと持ち場にいられそうにないんだ…」

わたしは画家のお仕事も大変なんだな…と感心して訊いていた。


「そこで、真古ちゃんに持ち場の案内嬢をお願いしたいんだ」


……………………?


「ええぇーっ!」



「大丈夫だ…特にすることは無いから…」

ビックリして慌てているわたしに、瀬戸くんは優しい眼差しで話しかけてくれる…


「真古都が引き受けてくれると本当に助かるんだ…断られたら別に頼まないといけないし…」

「俺としては知らないヤツと一緒に仕事をしたくない…」


「わ…わたし…頑張ります!」

つい…女の人が瀬戸くんの側に近づいて欲しくなくて言ってしまった…



「真古都…引き受けてくれてありがとう…」

その夜、一緒に星空を観ている時彼女に感謝の気持ちを伝えた。


「そ…そんな…わたしこそ、そんなお仕事したこと無いから、ご期待に応えられるか判らないけど、瀬戸くんのために頑張る」

大好きな真古都が俺のために引き受けてくれたのが嬉しかった…


笑顔を向けてくれる彼女への気持ちが胸の中にどんどん広がっていく…


広がりだしたその想いに俺はもうどうすることも出来なかった…


隣に座っている真古都の肩を抱き、もう片方の手を彼女の顔に触れると、俺は自分の顔をゆっくり近づけていった…


真古都の躰が固くなるのが判る…


「お前が…好きだ」

彼女の唇に自分の唇を重ねて暫く離さなかった…



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