第197話 君と再び

 「あ…あの…」

真古都の声で気付いた。

俺はまだ彼女を腕に抱えたままだった…


「悪い…余計な事を言ったな…」

俺は真古都の顔を覗き込んで言った。


「そんなことない…お陰で助かった…

わたし一人だったらどうして良いのか判らないから…」


真古都は俺がだと宣言したことを怒っている様子はない…


俺は腹を括った…

お前が相手なら…

またを繰り返すのも悪くはない…


「なら、当分お前、俺の彼女って事で…よろしくな…」

「えっ? えっ? えっ?」


相変わらず理解が追いついて来ない真古都が可愛くて堪らなかった。


「あんな男が毎日やってくるんだ…

暫くは丁度いいだろう…

それとも何?

俺が彼氏じゃ役不足なのか?」


「そっ…そんな事ないです!」


真古都は俺の言葉に可成り焦っている。


「だったらもっと嬉しそうな顔しろよ…

ただの彼氏でも断る理由にはなるだろ?」


真古都は真っ赤な顔で頷いている…


お前とまたこんな事をする羽目になるとは思わなかったが、思いがけず俺たちは

再び〔恋人〕と云う関係になれて俺は嬉しかった。



どうしよう…


判ってる…これはだもん…


瀬戸くんが困ってるわたしを見かねて、

付き合ってるを申し出てくれた事くらい…判ってる…


だけど…それなのにわたしの心臓はずっと蟬の羽音のように忙しく鳴っている…


なんで…こんなに忙しく鳴るの…



「真古都…着いたぞ」


瀬戸くんが声をかけてくれる。

わたしってば…車が教会に着くまで全然気が付かなかった…


「は…はいっ…ありがとうございます!」


あたふたと車を降りる真古都がなんだか堪らなく可愛くて、少しいじわるを言いたくなった…

家に入る直前、腕を掴んで引き止めると、彼女の耳元で囁いた…


「お前…俺の彼女だから…忘れるなよ」


忽ち真古都の顔が茜色の夕焼け空みたいに赤く染まっていく…



「真古ちゃん…顔、真っ赤…」

「まこしゃん…まっかぁ…」


家に入るなり子どもたちから指摘される…


「だ…大丈夫だから…

ホント…大丈夫だから…」


取り敢えず着替えてくると言って、慌ただしく自分の部屋へ入って行った。


そんな真古都を見て心配になったんだろう…螢が俺の腕を掴んで訊いた。


「真古ちゃん…また具合悪いの?」


「いや…車に酔っただけだよ」


俺は可笑しさを堪えながら螢に説明した。

螢は安心したのか、数真とまた遊び始めた。



「おいっ! どう云う事か説明しろ!」


後ろから先輩の声が聞こえる…

螢に言ったような誤魔化しが先輩に通じるはずがない…




「はあーっ」


先輩は俺の行動に呆れ返って、溜息しか出ないようだ…


「全く…お前ってヤツは…つくづく俺の寿命を短くさせたいみたいだな…」


頭を抱えて溜息を吐いてる先輩に俺は言葉が見つからない…


「ところでその男はどうするんだ?

このままほっとくのか?」


「ほっとく気はないが、今のところ花を買いに来てるだけだしな…」


俺だって指を咥えて見てるつもりはないが、これといった案がある訳でもなかった…


「子どもたちのことは大丈夫だから、当分お前は真古都と一緒に花屋をするんだな」


たとえ成り行きですることになっただったとしても、実現出来るかどうかはやっぱり俺にかかってる…


先輩の折角の気遣いだ…

当分真古都の傍にいて、彼女の心をしっかり繋ぎ止めないと…


よしっ!

俄然やる気が出てきたぞ!









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