第196話 憤慨

 店内にある花の水を替え、店の外を掃除していた。


〘あれあれ…今日はイケメンくんもいるんだ…〙


その声に顔を上げると、カフェで働く女の子が立ってる。


〘リゼ…〙

〘嬉しいな〜わたしの名前を呼んでくれるなんて〙


相変わらずヘラヘラした女だ…


〘そう云えば最近、よく花を買いに来る男がいるの知ってる?〙


少し声を落として話す彼女の言葉を俺は黙って訊いていた。


〘マコトが大事なら気をつけた方がいいよ…あの男、花を買うのが目的じゃないみたいだから…〙


リゼは話し終わるとカフェで飾る花を貰いに店の中へ入っていった。



真古都の花屋は結構人気で、常連の客も多くいる。


〘今日はいつものお兄さんがいるのね。

男性から花を渡されるなんて嬉しいわ〙

そう喜んでくれる近所の老婦人。


〘今日は何の花がいいかな…

そろそろ僕だけの彼女になって欲しいんだ

よ…〙

毎回デートの度に彼女へ花を贈る学生。


〘今日はママの好きな黄色い花がいい〙

入院してる母親に買っていく女の子。


真古都は一人一人丁寧に話を訊いて花を選んでいく…



「瀬戸くん…お茶にしようか」


客足が落ち着いてきた頃真古都が言ってくれた。


「そうだな…有り難う…」


微笑む彼女に、幸せな気持ちで満たされた時、が入って来た。



〘やあ、花の妖精さん こんにちわ〙


は…花の妖精だって?

確かにフランスこっちの男が女に色々な愛称で呼ぶのは知ってたが…


霧嶋でさえ真古都をそんなふうに呼んだことがないのに、その歯の浮くような台詞を真古都にかけられ、それだけでブチ切れそうだった…


〘いらっしゃい…

今日はどの花にしますか?〙


幾分引き気味な真古都に構わず男の方は遠慮なく近づいていく…


〘折角二人で見てるんだ…君も一緒に選んで欲しいなぁ…〙


男の態度に固まってる真古都の肩へ、そいつが手を触れようとした時、後ろから思い切りはたいてやった!


〘なっ…何するんだ!〙


はたかれた手を擦りながら男が怒った顔を俺に向けた。


〘お客さん、店の女性に気安く触れるのはやめてもらえませんか?〙


俺は表情も変えずに言った。


〘気に入った女性にアプローチするのは普通だろう!〙


俺が居るとは思わなかったようで、少し焦った様子を見せているが、それでも堂々と真古都をとぬかしやがった!


しかも

俺の中で遂に何かがブチッとキレた…



〘あの男…買った花を通りすがりの知らない人にあげたりするのよ…

ゴミ箱や川に捨ててる所を見たこともあるわ…〙



リゼは俺にそう教えてくれた。


〘悪いが諦めるんだな

彼女は俺のなんで…〙


俺は真古都を後ろから自分の方へ抱き寄せると、男を睨みつけながら忠告した。


男は一瞬物凄い形相で俺をにらんだが、直ぐに表情を一変させた。


〘なんだか誤解があるみたいだけど…

僕はそんなに怪しいものじゃないよ…

今日は余計な虫が飛んでるみたいだから日を改めてくるよ…

じゃあね、僕の可愛いひと…〙


シャアシャアと出ていく男に俺は怒り心頭だった!


余計な虫?!

可愛いひと?!


ふざけるな!!


俺は店の外に塩を撒きたい心境だった!






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