第191話 画家 瀬戸翔吾
「せ…瀬戸…翔吾…?」
いきなり俺が違う人間だと暴露され真古都も面食らっていらる様子だ…
「この家の…画家は俺なんだ…
黙っていて…すまない…」
「な…なんで…?どうして…名前まで…」
な…なんて言う?
「いや…あの…あの風体だろ…しかも画家なんていったら怪しまれそうだし…
先輩の知り合いから変に思われるのも…
何だし…」
俺はとにかく真古都が納得してくれるように必死だった…
「やだな…御行くん…あ、瀬戸くんか…
そんな心配いらないのに…」
判ってる…お前はそんなヤツじゃない…
「ご…瀬戸くん…今日のことは本当に気にしないで…数真は少し残念がってたけど…お仕事が大事な時もあるから…」
俯いて話す彼女の顔は、どこか諦めた感じがして、俺の胸を一層締め付けた。
だが、俺は“瀬戸”を名乗ってしまった以上、
もう恐いものはなかった。
真古都の躰を引き寄せ自分の胸の中へ閉じ込めた…
「気にするに決まってるだろ…
子どもにとっては一大イベントだぞ。
俺は子どもとの、そんな小さな約束でさえも大事にできる
真古都が胸の中で俺を見上げる。
色々な想いを自分の中に閉じ込めている顔だ…
こんなところは昔と少しも変わってない…
「泣いていいぞ…」
彼女の頬に触れると
「瀬戸くんの…いじわる」
懐かしい台詞に、俺のほうが泣いてしまいそうだった…
「真古都…これからは…
俺にどんな事でも言ってくれ…
お前の我が儘ぐらい何でも聞いてやる」
俺が頬を指でなぞりながら声をかけると、掠れた声が訴えた…
「は…早く帰ってくるって…言ったのに…」
「悪かった…」
「か…数真くんも…楽しみにしてて…」
「明日1番に謝るよ…」
「わ…わたしも待ってたのに…」
「二度と待たせない…」
彼女が自分の気持ちを話してくれる…
これからだ…
もう一度、二人でお互いの気持ちを育てていこう…
あの頃は自分の気持ちも満足に伝えてやれなかったが、今の俺は違う…
もう一度、お前が振り向いてくれるなら…
俺を好きになってくれるなら…
一日中でもお前が好きだと伝えるよ…
テーブルを挟み、祖父と孫娘は夕食を摂りながら会話を楽しんでいた。
〘今日は翔吾と二人でどうだったかな?〙
祖父が、まるでイタズラを仕掛けた子供が結末を知りたがるように訊いて来た。
〘翔吾とはお祖父ちゃんと一緒に何度も会ってるけど、お祖父ちゃんが連れて来る男性の中では1番変わってるわね〙
孫娘が今日の出来事を祖父に話して聞かせた。
〘あの人、ドアを開けとけって言うの…
それに、二人きりは良くないって、わたしを部屋から追い出すのよ!
わたし、お茶を替えに行った時しか話ができなかったわ〙
祖父がその話を訊いて満足そうに笑みをもらしている。
〘あの人、わたしがどれだけ話しかけてもニコリともしないのよ!
女の子に対して失礼だわ!〙
彼女は自分を見てもらえなかった不満を口を尖らせて言った。
〘お前に紹介した画家たちは将来有望な男ばかりだ…どの男でも自分が気に入った者を選ぶといい…〙
自分の知らない所で、そんな話が出ているとは夢にも思っていない俺は、
翌日カンカンに怒っている数真の機嫌をとり、プレゼントを買いに子どもたちを連れて、真古都と4人での買い物を楽しんでいた。
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