第189話 数真と螢

 医者からは、なるべく傍にいてあげるようにと言われた…


以前経験した事や、似たような事を一緒にするのも良いらしい…



「今の彼女の現実世界では、 “瀬戸翔吾” と云う人物は存在していません。辛いでしょうが理解してあげてください」


「大丈夫です…」


医者は、淡々とこれからの対応についてアドヴァイスしてくれた…


俺は先輩に連れられて、あの草原くさはらで真古都を見た時から決めたんだ…


これからはずっと真古都の傍を離れない



今日は子どもたちを連れて市場へ買い物に来てる。


俺が数真を抱き、真古都が螢と手を繋いでいる。

はたから見たら、仲の良い家族にしか見えない。


「螢ちゃん何食べたい?」

「お魚…」


螢は真古都によく懐いている。

母親からの愛情不足を真古都に求めてるようだ…


最初こそ先輩の傍から離れなかったが、真古都が数真と螢を分け隔てなく可愛がるうち、彼女に甘えるようになった…


数真も螢が気に入っていて離れないから、本当に姉弟のようだ…


「数真は何が食べたいかな?」

「おにくー」


やれやれ…数真と螢は正反対だな…


買い物が済むと、真古都と螢に1つづつ荷物を渡し、残りは俺が持った。


「数真くんもいるのに…荷物持ちをさせちゃってごめんね」


真古都が俺を見上げて申し訳ない顔を見せている。


そこで俺は一言…

「そこは礼を言ってくれたほうが嬉しいけど…」

と伝えた…


俺は以前、この言葉を顔も見ずに言った…今は彼女の顔を見つめて言える…


あの頃は、女の子になんて言って良いのか判らなくて…照れくさくて…そっぽを向いて言ったが、今ならちゃんとお前を見て言える…


お前は忘れているが、俺たちの懐かしい思い出だ…


ゆっくりで良い…

ひとつづつで良い…

俺との思い出を思いだしてくれ…



「あ…有り難う…」


真古都は頬を染めて言ってくれた…



帰り際、お菓子屋さんの前で数真が突然騒ぎ出した。


「あれー あれかうのぉー」


見ると、店先に大きな袋に入ったお菓子が置いてある。


「数真…いくらなんでも大きすぎるぞ…

欲しいならもっと小さいのにしろ…」


俺は他のお菓子をすすめた。


「ダメぇー! コレぇー!」


数真は一歩も引かないようだ。


迷った末、当分この中のお菓子をおやつに出す事に真古都と決めた。



家に帰ると、数真が先程の菓子袋を欲しがるので渡してやる…


数真は嬉しそうにその場で包み紙を破り、菓子袋から中身を全部外に出した。


「数真何してるんだ?」

「こりぇ… こりぇがほしーのぉ…」


数真は巾着型になっている菓子袋から、袋を結んでるリボンを取ろうとしていた。


「俺に貸してみろ…」


数真がしたんではリボンまでダメになりそうなので、俺が外してやった。


数真は嬉しそうな顔で、そのリボンをもって螢のところへかけていった。


「か…数くん何するの?」


数真は外したリボンを螢の頭に巻き付けている…


「数くんやめて…」

「ダメぇ…おたるしゃん、おしめしゃまにしゅるのぉ…」


俺と真古都は顔を見合わせてしまった…


「どれどれ…お母さんに貸してみて…」


真古都が数真に声をかけた。


「数真くん…このリボン、どうしたかったのかな?」


数真は真古都から聞かれると、螢の絵本を持って表紙を指さした。


「こりぇ…こりぇ…」


そこにはドレスを着たお姫様の絵が描かれてあった。


「そのお姫様みたいにすればいいのね」


数真は螢が髪を結んでもらっているのをニコニコしながら見てる。


真古都は螢の耳から上の髪を取ると真ん中から2つに分け、左右に結んで数真が持ってきた黄色のリボンをつけてみせた。


「おたるしゃん…かぁいいねぇ」


俺は呆れて数真を見た…

リボンをつけた螢に何度も“可愛い”を連発している…

そう云うところ…霧嶋そっくりだ…


リボンを螢にあげたくてあのお菓子を強請ったのか…?


「数真…螢こんなに可愛いから王子様が迎えに来るな」


なんだかちょっとからかいたくなった。


「おうじしゃまくるの?

おたるしゃん…およめしゃんになうの?」


そう言った途端に大声で泣き出した…


「おたるしゃん…ダメぇー

およめしゃん…ダメぇー…うわぁ~ん」


ま…マズイ…からかいすぎた…


「数くん…数くん…大丈夫だよ…

わたしはホントのお姫様じゃないから王子様なんて迎えに来ないよ…」


螢が泣いてる数真をなだめている…


「ホント?」

「ホントだよ…」


やれやれ…仲が良すぎるのも困りものだ…





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る