第188話 画家として

 御行くん…何の仕事してるんだろ…


「あ…ネットでやり取りしてるから…」


訊いたらそう言ってた…


数くんも家で仕事してたっけ…


「あ…あの…そう云えば…画家の先生に一度も会ってないんですけど…

わたし…この家にいるのに挨拶しなくていいんでしょうか…」


この家に来て大分経つけど、

夕食の時、先輩と御行くんに訊いてみた…


「ゴホッゴホッゴホッゴホッ…」

「えっ!!」


先輩は飲み物を喉に詰まらせるし、

御行くんもビックリした顔で見てる…


「あ…あの…二人とも…大丈夫?」


やだ…わたし何か変な事言ったかな…


「ご…ごめん真古ちゃん…

瀬…先生は今いないんだ…大事な用で…」


「そうですか…残念だけど仕方ないですね…」


真古都は残念な顔をしてるが、こればかりはどうしようも無い…


確かに…これだけの家に住んでいながら家主が一度も顔を出さないのは不自然だ…



「さあ、二人とも…食べ終わったらお風呂入って寝るよ…」


真古都が子どもたちに声をかけてる。


「おたるしゃんと寝る」


数真は螢に大分懐いたみたいで、今も螢にしがみついて真古都を困らせてる。

ああ云うところ…霧嶋にそっくりだな…


「おたるしゃんがいいのぉ…!」


真古都は相変わらずオロオロして…


「じゃあ、お風呂終わったら絵本持ってまた数くんのとこ行くよ」


螢が折れて数真のところに行くみたいだ…

螢は本当にいい子だな…



「何見てるんだ?」


先輩に肩を叩かれ我に返った…


「あ…いや…螢が我が儘な数真の面倒をよく見てくれるなと思って…」


俺は正直に気持ちを話した。


「それだけか?」


ホント…目ざとい


「数真のああ云うところ…霧嶋にそっくりだと思って…」


俺は少し不貞腐れるように言った…


「似てて当たり前だろ?あの男の子どもなんだから…それが嫌なら父親やめろ」


先輩からあっさり言われてしまうと、

何となく自分の未熟さを指摘されてるみたいで面白くなかった…


「バカな事言わないでくださいよ!

俺が心配してるのは螢の方です!

このままずっと数真が弟のように纏わりついてたら好きな相手も作れないでしょう!」


先輩から言われた言葉は悔しかったが、螢との関係を築くために、どれ程の苦労をしてきたのかを考えたら頭が上がらず、螢をダシに言い訳した…


それを訊いた先輩が笑い出した。


「悪いな…娘の心配までしてもらって…

だけど、数真と上手くやってくれるのは有り難いんだ…これからの螢にとっても良いことだから…」


先輩が少し辛そうな顔を俺に向ける…


「螢は…母親の男から虐待されてたんだ…

相手の男は小さいあいつが目障りだったようで、食事も満足に与えてもらえず暴力の痕もあった…」


初めて訊いた…

来た当初は遠慮がちにしていたのも、知らない人との共同生活だからだと思ってた…


「あいつは今もそんな心の傷を抱えて毎日を生きてる…だから…真古都に再会して病気に気付いた時、何としても治してやりたかったんだ…」


何だか…悔しかった…


「先輩…昔はクズでしたがいい父親になりましたね」


ワザと皮肉を込めて先輩に突っかかった…


「うるさい!クズだけ余計だ!

お前こそどうするんだ?!

いつまでも“画家 瀬戸翔吾”がお前だと隠しておけないぞ…」


本当にそうだ…


「病院の先生に相談してみます…」


俺の…画家としての未来も…

真古都と一緒でなければなんの価値もない


俺はいつお前に自分が“瀬戸翔吾”だと打ち明けられるんだろう…


折角…“御行翔”として親しくなれたのに…

“瀬戸翔吾”だと伝えて今の関係が壊れないか俺は怖かった…


男としても、まだまだ先輩に敵わないことばかりだ…


せめて…

先輩のように強い男に早くなりたい…


先輩の強さは螢への愛情だ…

愛情が人を強くする。


一人前の画家になって…

真古都が誇れるような男になるんだ!





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