第187話 先輩の娘

 「悪かった!」

先輩が真古都が教会にいる理由を訊いてテーブルに手をついて謝っている。


「それよりは本当に先輩の子なんですか?」


真古都を連れ込んだと言われて腹が立ったのは事実だが、治療が目的の為とは云え、同じ屋根の下に住めるのを内心喜んでいたのも事実だ…


その事を目ざとい先輩に感付かれないため話題を子どもに向けた。


「ちゃんと認知もしてるし、戸籍上も俺の娘だ」


先輩が真面目な顔で答える。


「いや…そうじゃなくて!

あの子どう見たって先輩の子どもじゃないでしょう?!」


「それ以上言うな!」


先輩が声高に俺を制した。

その表情に俺は怯んだ…


「悪い…大きな声を出して…」

「い…いえ…」


大きな声より寧ろ、らしくない言動が気になった。


「実はさ…まあ…恥ずかしい話なんだが…」


そう言って先輩は子どもとの経緯を教えてくれた。


「あの子は高校の頃手を付けた女の内の一人が、俺の子だと言って連れてきたんだ」


先輩は数真と一緒にいる女の子を見て言った。


俺が子どもたちを見ていた真古都と目が合うと、何かを察したのか、彼女は子どもたちを別の部屋へ連れて行った。


子どもたちがいなくなって、先輩はまた話しだした。


「お前も知っての通り、あの頃の俺は女なら手当たり次第だったからな…」


先輩が自分の事を皮肉交じりに話した。


「専門学校の卒業間近な頃かな…

女があの子を連れてきて俺の子だから引き取れって言うんだよ」


「だけど…」


「お前が言いたい事も判るよ…

いくら心当たりがあるとは云え、あの子を見たら自分の子じゃない事くらい俺だって気が付く…

だけどさ、女が連れてきた時、あいつ鶏ガラみたいに痩せてて…このまま帰したら死んじまうだろうな…って

そう思ったら帰せなかった…」


俺は何を言えばいいのか言葉に迷った…

先輩は自分の子どもじゃないと解ってて…


「まあ、好き放題してたツケが回ってきたと思えば済むことだしな…

子どもがいたら相手の男が嫌がると言うから、その代わり二度と顔を見せない条件に戸籍も親権もあいつと一緒に俺が貰い受けた」


先輩が妙に子どもの扱いが上手いのも

手際よく料理やおやつを作るのも

これで納得がいった…


「それで…先輩がいない時は誰が面倒を見てたんですか?」


先輩は俺とフランスにいた…

その間どうしてたのか心配になった…


「いや…祖母が面倒を見てくれてたんだが…俺がずっとこっちにいたろ…

親に捨てられたんだと思ったらしく癇癪が酷くて…それもあって説明しに日本へ帰ったんだが…

連れて行ってくれと泣きつかれて…」


先輩は困ったように話している…


「当たり前ですよ!あんな小さい子に分かる訳ないでしょ!何やってんですか!」


俺は、最近数真と過ごしていた所為か、一人で祖母と待っていたあの子が無性に切なく思えた。


俺は真古都のところへ行き、螢の事を話して今日から一緒に住むと伝えた。


「螢ちゃん良かったね」


真古都が声をかけたが、直ぐには信じられなかったのかぼうーとしている。


「螢…」

「お父さん!」


先輩が声をかけると直ぐに駆け寄ってきた。


「お父さん…わたし、おうち帰らなくていいの?ここにいていいの?」

「いいよ…

みんなと一緒にここに住むんだ…」


「うわぁ~ん」


螢の大きな泣き声が部屋中に響いた…











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