第186話 螢が来た

 真古都はカウンセリングを受ける事に同意してくれた…


俺と真古都は信頼関係を築くために、暫くの間、彼女に数真を連れてこの教会で過ごしてもらうことにした。


「よ…よろしくお願いします」


「お…おう…」


当初は、2階の東部屋を使ってもらっていたが、時々魘される真古都の傍にすぐ行けるように1階に移ってもらった…


「悪いな…こんな部屋で…」


俺は荷物を入れるのを手伝いながら言った…


「何言ってるの、数真くんの部屋もあるし、こんな広い部屋有り難う」


陽当りも風通しも良いが、天井には梁がむき出しになっているし、所々壁が剥がれているところもある…


そんな部屋だが、真古都は数真と一緒にとても喜んでくれた。



朝起きると真古都がいる…

ご飯が出来たと声をかけに来てくれる…

お前の声を聴いて1日が始まり…

お前の笑顔を見て1日が終わる…


不謹慎だが俺はメチャクチャ幸せだった…

どれも些細な事ばかりだが、

俺には十分だ。




カウンセリングも順調に進んでいる。


辛いトラウマに触れるため、カウンセリングのあった日は魘される事が多い…


俺はそんな真古都に寄り添って支えた…



その日も真古都はフラッシュバックにパニックになっていた。


「行かないでーっ! 行かないでーっ!」


「真古都っ!大丈夫だから!

俺は何処にも行かない!」


真古都を抱き締め、何度も声をかけた。


「お願い!わたしをおいて行かないで!」


泣き叫ぶ真古都を見るのは辛かった…

今日は特に酷い…


いつもは神経が昂っている真古都にキスをする…

彼女が落ち着くまで…何度かキスをし、

呼吸を合わせていく…


それこそ不謹慎だとか、ドサクサに紛れてだとか言われそうだが、苦しんでる真古都の気持ちがそれで治まるなら、何を言われようが、何度でも彼女にキスをする…


ところが、今日はそれでは収まらない…


浴衣を寝間着代わりにしているので、パニックで暴れると、当然直ぐに胸も足もはだけて来る…


俺はそんな姿を見るに見かねて、

真古都の上に被さった…


自分の躰の重さで暴れる真古都を抑えた…


「大丈夫…落ち着いて…俺はここにいる」


真古都の動きが止まったと思ったら…

彼女は名前を呼び始めた…


「た…助けて…翔くん…」


その言葉に俺の方が固まった。


「わたしを助けて…翔くん…お願い…」


その夜、俺は真古都が落ち着くまで胸に抱き締め、彼女が眠りに落ちてから自分の部屋へ戻った。



日本に帰ってひと月半…

先輩は突然帰って来た。


「その…なんだ…名前はほたるだ…

よっつになる…仲良くしてやってくれ…」


俺も真古都も開いた口が塞がらない…


先輩は4歳になると云う、赤毛の女の子を連れて帰って来た。


「何処で拾って来たんですかこの子!」


俺は先輩に訊いた。


「人聞きの悪いこと言うな!俺の娘だ!」


益々面食らった…


「先輩いつ結婚したんですか?

言ってくれれば俺だってお祝いぐらいしましたよ?」


俺は真面目に言ったつもりだった。


「バカ言うな! 俺は独身だ!

それよりお前こそなんだ!

俺がいない間に真古都を家に連れ込んで!

事によっては許さないからな!」


その言葉に俺もキレた!



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