第185話 真昼の月

 確かに真古都は今

俺のことを “翔くん” と呼んだ…

何か…思い出しかけたのか?


「御行くん…どうしよう…

なんか…わたし…怖いよ…」


真古都が俺の胸の中で震えている。

きっとハッキリしない記憶に

どうしていいのか判らず怯えているんだ…


俺の胸に顔を埋めている真古都の背中を優しく撫でてやる…


少しでも…気持ちが落ち着くように…



御行くんが背中を撫でてくれてる…

躰を触られてるのに平気だなんて…


御行くんは不思議なひとだ…

初めて会った時からそうだった…


わたしは男の人が苦手で…

少し触れられても気持ちが悪い…


だけど…このひとは違う…


初めて腕を握られた時も…

傍で話をする時も…


少しも違和感がなかった…

ずっと前から知っているひとみたいで…


御行くんの傍だと

心臓も、躰も、どこも苦しくない…



「大丈夫か? 苦しいところないか?」


御行くんが訊いてくれる。

わたしは頷いた…


「心配するな…焦らなくていい…

怖ければ傍にいてやる…

不安なら背中を撫でてやる…

辛ければ抱き締めてやる…

俺が…いつも一緒にいるから…」


嬉しかった…

こんなに安心出来たのはどのくらいぶりだろう…


「今、お茶を淹れて来てやるから…

もう少し横になってろ…」


「うん…」


俺は真古都の躰をゆっくりとベッドに寝かせた。




《お前が…好きだ》


だれ…


《好きだよ…ずっと一緒だ…》


貴方は…誰?

顔が…見えない…


《俺には…いつだってお前だけだ…》


お願い…行かないで…


わたしを助けて…貴方が…貴方が…


✕○☆✕☆△○…!!!



「真古都? 真古都?」


わたしは自分を呼ぶ声で目が覚めた…


「う…うぅ…」


我慢出来なくなって気持ちが溢れ出した…


「真古都…大丈夫か?」


「あ…頭の中でいつも声がするの…

わたしを呼ぶ声が…優しい声なのに…

だけど…顔が見えなくて…

いつもそうなの…見えそうになると…

穴の中に落ちて…

見たい顔が…どんどん遠くなって…

顔が見たいのに…

誰だか知りたいのに…」



お茶を淹れて部屋に戻ると、真古都が魘されていた。


何度呼びかけても「行かないで!」と、

叫んでる…


夢の中で誰かを追いかけているようだ…


誰を追いかけてる?


俺か?

霧嶋か?


お前の気持ちこころを掴みたいのに…

もう二度と他の男誰にも取られないように…

ずっと捕まえていたいのに…



「真古都…病院へ行こう?

決して怖い思いはさせない…

俺がずっと傍にいるから…」


真古都が泣き顔のまま俺を見上げる…


「ずっと?」

「ずっとだ!」


「は…離れない?」

「絶対離れない!」


「や…約束してくれる?」

「お前が望むなら…どんな誓いでも立てるよ…」


俺は真古都の小さな躰を

腕の中に力一杯抱き締めた!


「お前が知りたいヤツを…捜しに行こう…

お前が逢いたいヤツに…逢いに行こう…

俺は…何処までも付き合うから…」


 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る