第183話 静かなる日常

 「おぅおぅくー だっこぉ…」

花の入った容器をガラスケースに移してると、数真がしゃがんでる俺の背中にしがみついてきた。


「これが終わったらな…」


俺は数真を引き剥がすと立ち上がった。


「おぅおぅくー」


今度は片足に絡み付いてくる。


「………」



「御行くん…そろそろお茶にしな…

ええっ?! どうしたの?!」


店内の花を設置している俺を見て真古都がビックリして声をあげた。


俺は、あんまり抱っこをせがむ数真を背負い籠の中に入れて動かないように固定し、

背負って店内作業をしていた。


数真は俺の背中でご機嫌だ。


「数真があんまり抱っこをせがむから背負った」


申し訳ない顔をしている真古都に俺は説明した。


彼女とは、教会で俺と先輩が話しているところを見られてからは、もう隠しても仕方ないので普通に話しをするようになった。


「数真くん重たいでしょ?」


ゴミを外に運ぶ俺の後ろからオロオロして着いてきた…


「何言ってる…俺は男だぞ、問題ない」



〘あ…こんにちわぁ〙


ゴミ捨て場にいた女の子が声をかけてきた。

街道の表側にある、割と大きなカフェに勤めてるだ。


〘リゼもゴミを捨てに来たの?〙


真古都が声をかけた。


〘まっさかぁ…そんな事したら手が汚れちゃうじゃない…ゴミ棄てるフリしてちょっと出てきちゃった〙


彼女は当たり前のように話す。


〘だってお店に来る男の子はみんなわたしに会いに来るのよ。少しくらい休んでもバチは当たらないわ〙


ちゃっかりしてるだ…


〘マコトだって彼に持たせてるじゃない〙


〘そ…それは…〙


真古都が困った顔で俯いてる。

俺はゴミを棄て終わると二人に近づいて行った。


〘間違えるな。彼女が持たせている訳じゃない…彼女にんだ。

行くぞ真古都〙


〘はい…じゃあねリゼ…〙


俺と真古都は女の子をそのまま残して花屋に戻ってきた。


真古都が黙っているので、彼女の頭を撫でた。


「お茶を淹れてくれるんだろう?」


その言葉にやっと笑顔になる。


「うん!」


真古都はバックヤードにお茶を淹れに行った。



「さあ、そろそろ降りる時間だぞ」


俺は数真を籠から降ろした。


「おぅおぅくー もっとー」


よっぽど背中での籠が楽しかったのか、まだ乗りたいようだ…


「はいはい…また後でな…

一仕事したんだ…大好きな真古都のお茶を飲ませてくれてもいいだろ?」


俺は数真のほっぺをつまんで言った。


「あこしゃん しゅき…」


「俺も真古都が大好きだ…一緒だな…」


まあ、数真が相手だと俺のほうが分が悪いかもな…


当の数真は“一緒”と云う言葉にニコニコ喜んでいる。


俺は真古都が淹れてくれたお茶を飲み、再び数真を背負う。


背中から数真のキャッキャッと喜ぶ声が聞こえる。


「それじゃあまた後でな」


真古都の頬を親指でなぞりながら言った。


「うん…有り難う」


何とも幸せな時間だ…

あれだけ辛かった2年あまりの月日が嘘みたいだ…


俺たちは少し遠回りしたが

先はまだまだ長い…


どうかまた俺のことを好きになってくれ…





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