第178話 解離性障害

 「解離性障害?!」


医者から言われた真古都の病状だった。


「そうです…簡単に説明すると

意識や記憶に関する感覚をまとめる能力が一時的に失われた状態です」


「原因は亡くなった夫の行為ですか?」


先輩が医者に質問する…


「結婚前、合意もなく関係を結んで4ヶ月部屋に閉じ込めた事ですね。

確かに原因の1つです」


医者によると、彼女に起きている症状はいくつか複雑に絡み合っていて、原因も様々らしい…


心的外傷体験

幼少期の愛着問題

現在のストレス


「付き合っていた恋人を忘れてしまったのは、原因となる事柄に強く関連するものを一時的にシャットアウトして自己を守る防衛反応です…」


「結婚生活も、アイデンティティが消失して新たな生活を始めると云う行動が起こる症状ですね…

どちらも恋人の方には辛い現状ですが…」


「あいつは治るのか? そのためにはどうすれば良いんだ?」


先輩が医者に噛み付くように質問を投げ続けている間、唯唯俺は言葉も出せずに、

二人のやり取りを訊いていた…



真古都は…ずっと辛かったんだ!

初めて逢った時には…既に色々なことが

彼女の身に起きていて…


アイツはいつも言ってた…

自分に安心をくれるひとが理想だと…


自分が自分でいても良い安心が欲しいと…


コミュニケーションが取れないのも…

極度に男を拒絶するのも…

自己否定が強いのも…


母子家庭で我慢することも多かったろう…

婚外子と云う偏見や侮蔑に耐えることもあったろう…

心無いヤツからの嘲笑や嫌がらせに辛い日々もあったろう…


俺は…本当に情けない男だ…

お前の笑顔すら護ってやれなかった…




「霧嶋真古都さんの場合、治療は長期に渡ると考えられます。」


「構いません!俺は絶対あいつを元に戻してやりたい!治療費がかかるなら仕事を増やしてでも作ります!

だからどうぞお願いします!」


先輩が頭を下げて医者に頼んでいる…

あれは…本来俺が行うべき事なのに…

俺は一体何をしてるんだ…



「ア…アイツに…何をしてやったらいいんですか?」


俺はすがるように医者に尋ねた。


「ご家族や、周囲の方たちは症状をよく理解して患者さんをサポートし、共に治療に取り組むことが大切です」


俺は医者の言うことを一字一句聞き逃さないために、相手から目を離さなかった。


「治療の基本は、安心できる治療環境を整えることです。

解離されている心の部分は、安心できる関係性でしか表現できません」


「安心できる関係性…?」


「そうです。解離は言わば自己防衛の現れです。安心できる環境を整え、患者さんとの信頼関係を築き、患者さんが解離しなくて良い状態にしてあげることが大事なんです」


俺は真古都と一緒に生きて行くと決めた。

彼女のための労力など大したことはない!


「体調不良に気を付けて下さい。

その為、すれ違いが起きやすくなります。

体調不良の頻度や苦手な場所の確認。

患者さんは自分の限界を言葉にできないので、要求にも気を付けて下さい…」 


医者から時間をかけ、彼女に対する接し方や注意することを、事細かく説明された。


俺の覚悟は決まっている…

絶対アイツを元に戻してやる!


これから

俺の下に戻す第一歩が始まるんだ!






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