第三章

第176話 始まりの終り

 「真古都さん 大好き」


あの声が耳から離れない…

お願いだからもう一度聞かせてよ…


貴方はいつもあんなに優しかったのに…


あんまり良い奥さんでなくてごめんなさい

何もしてあげられなくてごめんなさい


ごめんなさい

ごめんなさい


あっと云う間だった…


朝方、数くんが急に苦しみ出して…

わたしは大声でお義母さんを呼んだ…


わたしはまだ数くんに何もしてあげてない!

伝えたい事もまだまだたくさんあるのに…


お願い行かないで!


数くんは“有り難う”ばかり繰り返してる…


「母さん…僕を産んでくれて有り難う…

そのお陰で僕は真古都さんと出会えた…

いつも我が儘ばかり言って

困らせてばかりで…

親不孝者でごめんなさい…」


「数真…産まれて来てくれて有り難う…

君が産まれて来てくれて嬉しかった…

僕の代わりにお母さんを頼むね…

大好きだよ…数真…」


「真古都さん…大好き…

君が傍にいてくれて幸せだった…

僕みたいな男に…最期まで有り難う…

大好き…大好き…だい…」


「数くんっ!行かないで!行かないで!

あーーーーーーーーーーーーーーー…っ!」




「真古ちゃん…真古ちゃん…」

数くんのお墓の前で泣き崩れているわたしをお義母さんが心配して呼びに来た…


「お義母さん…お義母さん…」

お義母さんの胸に、しがみついて泣くわたしを優しく抱きしめてくれる。


「真古ちゃん…数祈のことをそれ程思ってくれるのは嬉しいわ…

でも、このままじゃ真古ちゃんがダメになっちゃうわ…」



数くんがいなくなって、わたしは毎日彼のお墓の前に行き懺悔している…


「真古ちゃん…気持ちはわたしも一緒よ…だけど、何が良かったのかなんて誰にも判らないわ」


お義母さんはわたしに、熱い紅茶を淹れてくれた。


「本当のことは数祈しか判らないわ

悲しいだろうけど…

数真も寂しがってるから傍に行ってあげて…」



わたしと数くんの寝室で数真は遊んでいた。


数くんが亡くなってから、この部屋から出ようとしなくなった…


いつか、大好きなお父さんが来てくれると思っているのかもしれない…


「数真くん、向こうのお部屋行こう?」


「やーっ!」


数真くんは絶対言うことをきかない…


「数真くん…お願いだからお母さんの言う事きいてよ…お母さんだって…数くんに逢いたいんだよ…」


わたしはベッドを背に、膝を抱えながら、我慢していた涙をまた落としてしまった…


「あこしゃん…しゅき…

うっとぉ…おばにいうよ…」


数真くんがわたしの傍に来て話し出した。


「うっとぉ…おばにいうよ…」


そうか…数真くんは、大好きなお父さんからわたしのことを頼まれたから…


「数真くん…」


わたしは…数くんが遺してくれたこの子を

ちゃんと育てていかなきゃ…


しっかりしないと…


「あこしゃん…しゅき…」


「うん…うん…お母さんも大好きだよ」


数真くんの瞳は

数くんと同じマリンブルーだ。

この瞳が傍にいてくれる限り

わたしは数くんを忘れたりしない…



「数真くん、お母さん頑張るね!」

 







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